溶血性貧血
ようけつせいひんけつ

最終編集日:2025/3/13

概要

血液中の赤血球には、ヘモグロビンと呼ばれるたんぱく質が含まれ、体内に酸素を運ぶ役割を担っています。このヘモグロビンの濃度が低下した状態を「貧血」といい、「溶血性貧血」は、何らかの原因で赤血球が通常の寿命(約120日)よりも早く壊され(溶血)、その産生が追いつかなくなることで発症します。

溶血性貧血には先天性と後天性のものがあり、先天性のものには遺伝性球状赤血球症やサラセミアなどがあります。一方、後天性のものとして自己免疫性溶血性貧血(AIHA)があります。ここではAIHAについて説明します。

AIHAはさらに温式AIHAと冷式AIHAに分類されます。冷式AIHAには、寒冷凝集素症(CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)があります。温式AIHAは成人女性に、CADは高齢者に、PCHは小児に多く発症するとされています。

国内におけるAIHAの推定患者数は約1500~3000人で、厚生労働省の指定難病になっています。


原因

自分の赤血球に対して免疫系が異常な抗体(自己抗体)をつくり、赤血球を攻撃・破壊してしまうことが原因になります。通常、抗体は細菌やウイルスなどの異物に対してつくられますが、誤って自分の赤血球を標的としてしまうことで溶血が起こります。

自己抗体が産生される原因はまだ明らかになっておらず、膠原病全身性エリテマトーデスなど)、悪性リンパ腫などの血液腫瘍、感染症(マイコプラズマ肺炎麻疹水痘流行性耳下腺炎など)、特発性血小板減少性紫斑病などに合併することもあります。


症状

おもな症状として、貧血によるめまい息切れ動悸倦怠感などがみられます。また、赤血球が破壊されることで黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が現れ、脾腫(脾臓の腫れ)を伴うこともあります。

温式AIHAでは、貧血が急激に進行することがあります。

PCHでは、暗赤色の血尿がみられます。発症すると突然の貧血、腹痛悪寒発熱がみられ、腎不全を合併することもあります。

CADでは寒冷環境下で、手足や耳、鼻の末端部分が青白くなったり、痛みを感じたりすることがあります。

溶血性貧血の専門科は血液内科ですが、受診がむずかしい場合は、まず内科を、小児の場合は小児科を受診し相談するといいでしょう。



検査・診断

血液検査によって、貧血の有無やその程度、赤血球破壊の徴候を調べます。自己抗体の有無を確認するために「クームス試験(抗グロブリン試験)」が行われ、陽性であればAIHAと診断されます。また、合併症の評価や原因疾患の特定のために、追加の検査(骨髄検査、感染症検査、自己抗体検査など)が行われることもあります。

治療

温式AIHAは軽症であれば経過観察となることもありますが、治療が必要な場合は、ステロイドの投与が第一選択となります。ステロイドは約80%の患者に有効とされており、症状の改善を確認しながら漸減(投与量を徐々に減らす)し、維持療法へと移行します。効果が十分でない場合は、免疫抑制薬を使用することがあります。また、モノクローナル抗体薬が試みられる場合もあります(保険適用外)。薬物療法が無効な場合の選択肢として、脾臓摘出(脾摘)がありますが、患者の負担が大きいことから回避される傾向にあります。

CADは、軽症であれば寒冷環境を避けることで改善する場合があります。寒冷環境で症状がコントロールできない場合は、スチムリマブというモノクローナル抗体薬が用いられることがあります。ステロイドの効果は温式AIHAほど高くありません。また脾臓摘出の有効性も低いため、通常は行われません。

PCHは通常、感染症に続いて発症し、多くは原疾患が改善するとPCHの症状も自然に軽快します。しかし急激な貧血がみられる場合はステロイドが使用されることがあります。腎不全のリスクもあるため、慎重な管理が必要です。


セルフケア

療養中

溶血性貧血は慢性的な経過をたどることが多いため、日々の自己管理が重要です。

温式AIHAでは長期にわたるステロイド治療が必要になることがあるため、副作用(骨粗鬆症、高血糖、感染症リスクの増加)に注意しながら、医師の指導のもとで適切に治療を継続します。

冷式AIHAでは日頃から十分な保温に努め、寒冷環境を避けることが症状悪化の予防につながります。室温を一定に保つ、手足を冷やさない、外出時には保温に留意するなどの工夫が必要です。また、冬には部屋ごとの温度差が少なくなるようにするなど、生活環境を整えることが大切です。

溶血性貧血の治療は医師との密な連携が不可欠です。定期的に医療機関を受診し、症状の変化を適切に報告しながら治療を続けます。



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監修

東海大学 医学部血液腫瘍内科 教授

川田浩志