悪性リンパ腫あくせいりんぱしゅ
最終編集日:2025/12/8
概要
血液細胞のなかの白血球の一種であるリンパ球ががん化して増殖し、おもにリンパ組織に腫瘤(こぶ)をつくる病気です。進行するとリンパ節だけでなく全身に広がっていきます。悪性リンパ腫には多くの種類がありますが、がん細胞の形態や性質から大きく「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つに分けられます。日本人は欧米人に比べホジキンリンパ腫が少なく、多くは非ホジキンリンパ腫です。現在ではさらに、がん化した細胞の由来によって「B細胞リンパ腫」と「T細胞/NK細胞リンパ腫」などに細かく分類されており、この分類によって治療方針が大きく異なります。
原因
悪性リンパ腫の明確な原因はまだよくわかっていませんが、遺伝子の変異(染色体異常)が関与していると考えられています。 また、一部のタイプのリンパ腫についてはウイルスや細菌の感染が原因となることがわかっています。代表的なものとして、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)による成人T細胞白血病/リンパ腫や、EBウイルス、胃のピロリ菌感染などが挙げられます。 その他、関節リウマチなどの自己免疫疾患、免疫不全状態、特定の化学物質との接触などが発症リスクを高めると考えられていますが、多くの場合は原因を特定できません。
症状
おもな症状は、首、わき、足の付け根などリンパ節のある部位の「しこり」や腫れです。通常、痛みがないのが特徴です(無痛性)。 病気が進行し、血流に乗って全身の臓器(骨髄、胃、腸、腎臓、肝臓、脳など)に広がると、発熱、体重減少、ひどい寝汗(盗汗)といった全身症状(B症状)が現れることがあります。さらに腫瘤による圧迫で、血流障害や麻痺などが起こることもあります。
検査・診断
悪性リンパ腫が疑われる場合には、まず触診や血液検査、画像検査(CT、MRI、PET検査)を行います。確定診断には、腫れているリンパ節の一部または全部を手術で取り出し、顕微鏡で調べる「生検(病理検査)」が必須です。近年では診断技術が向上しており、顕微鏡での観察に加え、「免疫染色」や「フローサイトメトリー」による細胞表面マーカーの解析、さらには「遺伝子解析(FISH法やNGSなど)」を行い、詳細な病型を確定させることが標準的です。また、病気の広がり(病期:ステージⅠ~Ⅳ)を確認するために、骨髄検査や消化管内視鏡検査、脳脊髄液検査などが追加で行われることがあります。
治療
悪性リンパ腫のタイプ(病型)と進行度、患者さんの全身状態によって最適な治療法が選択されます。
●薬物療法
治療の中心です。抗がん剤による化学療法が基本となりますが、特定の病型(B細胞リンパ腫など)においては、抗がん剤に加えて、がん細胞の特定の標的を狙い撃ちにする「分子標的薬(抗体薬など)」を組み合わせる治療法が標準的に行われています。
●放射線療法
病変が局所にとどまっている場合や、化学療法後の補助として行われます。
●新しい治療法・その他
再発・難治性の場合などには、さらに強力な化学療法や、造血幹細胞移植(自家移植または同種移植)、あるいは近年登場したCAR-T(カーティー)細胞療法などの新しい治療が行われることもあります。一方で、進行が年単位でゆっくりしたタイプ(低悪性度)で症状がない場合は、すぐに治療を開始せず、慎重に経過観察を行うこともあります。
セルフケア
予防
ほかのがん同様、確実に予防する特定の方法はありません。 通常は、首、わき、足の付け根などの「痛みのないしこり」に自分で気づいて受診されるケースが多くみられます。日頃からご自身の体に変化がないか気にかけておくことが大切です。
監修
東海大学 医学部血液腫瘍内科 教授
川田浩志