耳帯状疱疹/ラムゼイ・ハント症候群じたいじょうほうしん らむぜい・はんとしょうこうぐん
最終編集日:2025/3/10
概要
耳帯状疱疹は、耳のなかや周辺に帯状疱疹が現れる病気です。
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:ヘルペスウイルスの一種)に感染して起こります。VZVの初感染は水痘(みずぼうそう)を発症します。水痘が治まったあともウイルスは脊髄後根神経節という部分に潜伏し、体力の低下や高齢などで免疫が低下すると再活性化して、帯状疱疹を発症します。
通常、神経支配領域(一つの神経が支配する皮膚の範囲)に沿って、左右どちらか片側の皮膚に発疹が現れます。最も頻度が高いのが肋間神経領域(背中や胸、おなかなどの体幹)で、次に多いのが三叉神経領域(顔)です。
耳帯状疱疹は顔面神経の膝神経節という部分(耳の後ろの骨のなかにある)に潜伏したウイルスが再活性化して発症します。頻度は高くありませんが、神経麻痺やめまい、難聴などを合併し、治りにくいとされています。とくに顔面神経麻痺を伴うものを「ラムゼイ・ハント症候群」と呼んでいます。
原因
膝神経節に潜伏していたVZVが再活性化し、神経に炎症が起こり損傷されます。体力の低下、過労、ストレス過多、高齢などで免疫力が低下したときに発症リスクが高くなります。
症状
耳のなかや周辺に水疱(水ぶくれ)、発疹、発赤が現れます。発疹部のひりひりした痛み、耳の奥の疼痛、耳鳴り、難聴、めまいを伴います。口腔内(舌や口蓋)に水疱が現れることもあります。
同時に、あるいは前後して、顔の筋肉が動かしにくい(目を閉じられない、眉が動かない、口を閉じられない、笑えない、表情を変えられないなど)、顔の左右が対称でなくなる(眉や口角の高さが違う、顔がゆがむなど)、味覚障害などが現れます。
これらの皮膚症状、痛み、難聴、めまい、顔面神経麻痺などが現れる順序は人によってさまざまで、そのため、正確な診断・適切な治療を受けるまでに時間がかかることがあります。
検査・診断
現れている症状によって、検査の順番は異なりますが、皮疹や皮膚の状態のチェック、耳の内部の視診、聴覚検査、眼振(意思にかかわらず眼球が揺れる)のチェック、平衡感覚検査、味覚試験、顔面運動の評価などが行われます。顔面運動の評価では、顔面各部位の動きをみて評価する「柳原法」などを用います。
顔面神経を電気で刺激して反応をみる「誘発筋電図検査(ENoG)」では、神経が障害されている程度の診断や、予後予測を行います。
顔面神経麻痺を起こすベル麻痺や中枢性の神経麻痺などとの鑑別が重要です。
治療
抗ウイルス薬とステロイドを服用します。発症から早い時点での投薬が、高い効果につながります。
顔面神経麻痺が強い場合には、炎症を起こしている神経への圧迫をゆるめる「顔面神経減荷術」という手術が考慮されます。
また、麻痺の回復期に「病的共同運動」と呼ばれる症状や、顔の片側の拘縮(筋肉がかたまってしまい、顔がゆがむ)が現れることがあります。病的共同運動では、咀嚼の際に目が閉じてしまうなど、意図しない表情筋が動いてしまいます。これらの症状に対しては、ボツリヌス注射(ボツリヌス菌が産生する毒素を利用して、神経から筋肉への指令をブロック、筋肉の緊張を和らげる)が有効とされています。
神経痛が持続する場合には、ペインクリニックでの疼痛治療が行われます。
セルフケア
療養中
予防
顔面神経麻痺の自然治癒は30%程度にとどまり、適切な治療を行っても治癒するのは約60%とされています。麻痺のほか、病的共同運動、顔面拘縮などが後遺症として残るケースもあります。後遺症を残さず完治させるためには、発症後10日以内に適切な治療を行うことが肝要とされています。耳の痛み、発疹、めまい、顔面の麻痺など、耳帯状疱疹を疑わせる症状を覚えたら、耳鼻咽喉科を速やかに受診してください。
帯状疱疹の予防として、日ごろから免疫力を低下させないよう、睡眠や休養、栄養バランスのよい食事をとり、かぜやインフルエンザにかからないよう留意します。
50歳代から発症リスクが高くなることから、好発年齢になったら、帯状疱疹ワクチンの接種を考慮してもいいでしょう。ワクチンは50歳以上の人と罹患リスクが高いと考えられる18歳以上の人を対象にしていて、1回接種の生ワクチンと、2回接種の不活化ワクチンがあります。
なお、2025年4月から、65歳を対象に定期接種となり、費用の一部が公費負担されます。5年間は66歳以上も対象となるため、接種方法や費用などについて、各自治体で確認しましょう。
※2025年3月10日時点の内容です。
監修
耳鼻咽喉科日本橋大河原クリニック 院長
大河原 大次