多発性嚢胞腎たはつせいのうほうじん
最終編集日:2025/3/18
概要
腎臓に、内部に水がたまった袋状の「嚢胞」が多数できる遺伝性の病気です。健康な人でも腎嚢胞は頻度高く発生しますが、ほとんどは心配のいらないものです。多発性嚢胞腎では、左右の腎臓にそれぞれ3個以上の嚢胞が認められます。
「常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)」と「常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)」があり、ADPKDは腎臓の遺伝性疾患のなかで最も頻度が高く、約3000~7000人に1人の割合で発症するとされています。ADPKDは加齢とともに左右の腎臓に嚢胞が増大・増殖していきます。若年層では症状が現れないため、健康診断やほかの病気の腹部超音波検査で見つかることがほとんどです。一方、ARPKDはより重症で、新生児の頃から症状が現れるケースもあります。
健康診断などで多発性嚢胞腎の可能性を指摘されたら、腎臓内科を受診します。多発性嚢胞腎は厚生労働省の指定難病になっています。
ここではADPKDについて説明します。
原因
遺伝子変異が原因で、PKD1、PKD2という2つの遺伝子が同定されています。
遺伝性疾患ですが、ADPKDの15.3%に家族歴がないという報告もあり、その場合は遺伝子の変異がなぜ起こるのかはわかっていません。
症状
40歳代くらいまで、多くは無症状で経過します。最初に気づく症状として、外傷後(からだに衝撃を与えるようなスポーツが原因の場合も含む)の肉眼的血尿(目で見てわかる血尿)、腹痛、背中の痛み(背部痛)などがあります。高血圧を合併しやすく、高血圧症を指摘されてからADPKDが見つかるケースもあります。
嚢胞が増大・増殖すると腎臓そのものが腫大(腫れて大きくなる)して、腹部の圧迫感、膨満感、食欲不振、高血圧などが現れます。腫大した腎臓を外から手で触れることもあります。
また、嚢胞が何らかの細菌に感染して炎症を起こすと、発熱や急な腹痛・背部痛がみられます。
検査・診断
腹部超音波検査で複数の嚢胞が見つかり、多くは腎臓の腫大が所見として認められます。問診で家族歴の有無を確認します。
以下の①~③を満たすことでADPKDと診断されます。
①家族内発生が確認されている、②超音波検査で、両方の腎臓にそれぞれ3個以上確認されている、③CT、MRIでは両方の腎臓にそれぞれ5個以上確認されている。ただし、家族歴がない場合もあります。
尿検査や血液検査で腎機能を評価し、機能低下の程度を精査します。
高血圧、肝嚢胞(肝臓に嚢胞ができる)、脳動脈瘤、尿路結石などを合併しやすいため、腹部の画像検査や脳MRアンギオグラフィなどで、これらの合併症の有無・程度をみる検査も行います。
心臓弁膜症、とくに僧帽弁閉鎖不全症という病気の罹患率が高くなることから、心臓超音波検査(心エコー)による心臓弁膜症スクリーニングも大切です。
家族歴がない場合は、ほかの嚢胞性腎疾患(後天性嚢胞性腎疾患、多発性単純性腎嚢胞、多房性腎嚢胞など)の可能性があるため、鑑別が重要です。
治療
血圧管理が非常に重要です。高血圧はADPKDに合併する頻度が高く、若年から発症し(平均発症年齢30歳代)、腎機能が低下する前から認められることが多いためです。また、尿濃縮障害が起こるため、飲水をしっかり行うことも重要です。
腎機能が保持できていて、適応条件に合えば(腎臓の容積や腎機能の検査値などから判断)、トルバプタンという、嚢胞の増殖を促すホルモン(バソプレシン)の分泌を抑えて、進行を遅らせる薬を用います。脱水を起こしやすく、高ナトリウム血症や肝機能障害などの副作用の可能性があるため、通常は入院して投与が進められます。
嚢胞が細菌感染で炎症を起こしている場合は、抗菌薬を用いて炎症を抑えます。
肝嚢胞や脳動脈瘤がある場合には、それらの治療も検討されます。とくにADPKDに合併した脳動脈瘤は小さいものでも破裂しやすい特徴があるため、注意が必要です。
ADPKDでは60歳代までに約50%が腎不全になるといわれ、人工透析や腎移植といった「腎代替療法」を検討することになります。
●腎腫大による症状を軽減する治療
腎腫大が改善されず、腹部圧迫感、膨満感、痛みなどが改善しない場合に、外科的な治療を行うことがあります。
「腎嚢胞穿刺吸引療法」は、嚢胞に外から針を刺して液体を吸引し、エタノールという薬剤を注入して嚢胞を縮小させる治療法です。
「腎動脈塞栓術」は腎臓の動脈の血流を遮断して、嚢胞を縮小させる治療法です。すでに人工透析を導入して、1日の尿量が500mL未満の場合に適応となります。
セルフケア
療養中
多発性嚢胞腎では脱水になりやすく、脱水に陥ることが病状を悪化させることもわかっていますので、しっかりと飲水して防ぐことが大切です。また、合併症のひとつである尿路結石を防ぐためにも、水分を十分にとりましょう。
合併症の改善・予防に努めることも重要です。塩分制限による血圧のコントロールや、適正なエネルギー摂取による肥満の改善・予防を継続させましょう。
監修
しみず巴クリニック
小林顕子