若年性認知症
じゃくねんせいにんちしょう

最終編集日:2024/6/7

概要

認知機能が低下する「認知症」は高齢者の病気というイメージがあり、実際に高齢者に好発します。しかし中年期にも発症がみられ、65歳未満で発症した場合を「若年性認知症」と呼んでいます。高齢者の認知症と同じように、認知機能が障害される原因によって、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、アルコール性認知症、外傷性認知症などに分けられます。


18~64歳の若年性認知症は、357万人と推計されており、10万人当たりの発症率は約50人、平均発症年齢はおよそ51歳とされています。厚生労働省の2009年の調査では血管性認知症:39.8%、アルツハイマー型認知症:25.4%、外傷性認知症(頭部外傷後遺症):7.7%、前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症):3.7%、アルコール性認知症:3.5%、レビー小体型認知症:3.0%などでしたが、その後アルツハイマー型認知症が最も多いとの報告も出てきています。高齢者の認知症と異なり、男性の発症のほうが多くみられます。


若年性認知症は、現役世代の発症であり、患者さんやその家族にとっても、また社会にとっても損失が非常に大きく、社会的な取り組みが進められています。

原因

●アルツハイマー型認知症……アミロイドβ(ベータ)たんぱく質や、リン酸化タウたんぱく質が脳に蓄積することが原因で発症します。


●血管性認知症……脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因となり発症します。血流の不足や、出血による脳の圧迫などで神経細胞が障害されて起こります。


●前頭側頭型認知症(ピック病など)……リン酸化タウたんぱく質などが前頭葉・側頭葉に限局的に蓄積し、神経変性が起こることが原因です。


●レビー小体型認知症……異常たんぱく質からなるレビー小体が脳に蓄積して起こります。


そのほか、事故や転落などによる頭部外傷、アルコール依存での脳の障害などがあります。

アルツハイマー型・前頭側頭型・レビー小体型認知症では、なぜ異常なたんぱく質の蓄積が起こるのかは明らかになっていません。高齢者の場合は加齢が大きな要因のひとつとされていますが、若年性認知症ではなぜ早期に発症するのかも明らかではありません。

症状

認知症の症状は、脳の障害から起こる「中核症状」と、認知機能の低下に伴う二次的な「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。行動・心理症状は個人差が大きく、症状の強さも異なります。

中核症状には、記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、理解・判断力の障害、失語などがあり、行動・心理症状には、幻覚・妄想、徘徊、不安や焦り、抑うつ、興奮、暴言などがあります。


●アルツハイマー型認知症……新しいことを覚えられない・すぐに忘れてしまうなど「短期記憶力」の低下から始まります。徐々に、遂行機能(物事を計画を立てて進める)の低下、失語(言葉がすぐに出ない)、計算ができない、見当識障害(自分が今いる場所がわからなくなる、日付や時間がわからない、他人が誰かわからなくなる)が現れてきます。具体的には、いつも通っている駅から自宅への道で迷ってしまう、料理がつくれない、着替えの順番がわからない、日付がわからない・聞いてもごまかすなどがみられます。


●血管性認知症……記憶障害、遂行機能障害、失語などのほかに、気分の変動、運動が可能でも日常の簡単な動作ができない(失行)などが起こることがあります。脳の損傷部位によって、歩行障害や手足のまひ、排尿障害、ろれつが回らないなどを伴うこともあります。


●前頭側頭型認知症……抑制がきかず感情を爆発させる、身だしなみがだらしなくなる、相手が言った言葉を繰り返すなど自発性のない発言が増える、同じ行動を繰り返す(常同行動)、感覚が鈍くなって相手のことを思いやれないなどがみられます。前頭葉は社会性や人格、言語(話す)にかかわり、側頭葉は記憶、聴覚、言語(聞いて理解する)などにかかわる部位であるために、これらの症状が現れます。


●レビー小体型認知症……見当識障害、幻視、妄想、うつ、パーキンソン症状(動作が緩慢になる、静止時に手が震えるなど)、睡眠中に大声で寝言を言ったり、手足を激しく動かしたりする行動異常などが現れます。症状が強いとき・弱いときがあり、変動するのも特徴的です。

検査・診断

くわしい問診の後、神経心理学的検査を行うことで認知機能の障害の程度を把握します。ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、などが最もよく用いられ、さらに臨床的認知症尺度(CDR)などもよく行われます。脳の萎縮の広がりや程度をみたり、脳のほかの疾患の有無を検討するためにもCT検査、MRI検査が行われます。脳の血流や代謝の障害をみるのに脳血流シンチグラフィやPET検査も必要に応じて行われます。

また、全身の状態をみるために血液検査は必要です。アルツハイマー型認知症が疑われる場合は、脳脊髄液中のリン酸化タウたんぱく質などを測定する検査を行うことがあります。

レビー小体型認知症が疑われる場合には、特徴的な状態を確認して診断に役立てるために、脳ドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DATスキャン)やMIBG心筋シンチグラフィが行われます。

神経心理学的検査には、さらにいろいろな種類があり、認知機能障害をくわしく検討するのに、患者さんの状態に合わせて選択して行われることがあります。

治療

若年性認知症に限らず、認知症には根治治療薬はまだなく、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせるのに有効性が認められた神経伝達物質を増やす薬(ドネペジル、リバスチグミン、レミニール、メマンチン)が保険適用になっています。レビー小体型認知症にもその有効性が認められるようになりましたが、ほかにも脳の血流や代謝を改善させたり、二次的に生じてきているBPSDを改善させる薬が使われています


2023年、新たにアルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβを除去できる根治治療薬として「レカネマブ」が保険適用になりました。なお、対象はアミロイドβたんぱくの蓄積がみられる初期の認知症と、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の患者さんのみですが、効果が期待されます。

認知症に対しては、薬物療法と並行して作業療法、運動療法、レクリエーション、リハビリテーションなどの非薬物療法の効果も認められています。社会とのつながりを保ちつつ、前向きで意欲的な生活が非常に大事であることがわかってきています。

セルフケア

療養中

生活の中での工夫も必要です。家族などの連絡先を書いて見やすいところに貼る、見やすいカレンダーにスケジュールを書き込んで目につくところに置く(日めくりが日付の把握に役立つ)、棚や引き出しには入っている物を書いたラベルを貼るなどを試してみましょう。また、車の運転を継続するかどうかの検討も必要です。現在は、患者さんや家族を孤立させないために、できるだけ開かれた環境や本人たちが望む環境を実現する試みがなされています。

就労継続支援事業、相談や交流・活動の場としての「認知症カフェ」などがあります。公的なサービスとしては、自立支援医療(医療費の軽減)、精神障害者保健福祉手帳・身体障害者手帳の交付、介護保険サービス(40歳以上で利用可)、成年後見制度などがあります。わからないことがあれば、地域包括支援センターや、若年性認知症支援コーディネーター(都道府県に配置)、医療機関の相談窓口などに相談しましょう。

予防

若年性認知症では、診断が遅れるケースが多くなっています。仕事や家事でミスをしても、疲れているから、ストレスが多いから、更年期だからなどと考え、認知症が原因とは思い至らないことも少なくありません。認知症の薬は初期であるほど効果が期待でき、MCI(軽度認知障害)の段階で発見されることが望ましいとされています。「いつもの過労やストレスとは違う気がする」「何となくいつもの自分じゃない」、あるいは家族が「いつもと様子が違う」と感じたら、早めの受診が肝要です。「認知症疾患医療センター」に認定された医療機関、あるいは「物忘れ外来」、認知症専門医がいる医療機関などが望ましいのですが、抵抗がある場合は、まずかかりつけ医に受診するのもよいでしょう。

監修

昭和大学医学部脳神経外科 名誉教授

藤本司

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