特発性正常圧水頭症

とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう

最終編集日:2023/7/27

概要

脳の中心部にある脳室のなかの脈絡叢(そう)で脳脊髄液(無色透明の液体)が1日に約450mL つくられ、脳室、さらに脳を包むくも膜の下(くも膜下腔)を循環しています。脳脊髄液は、吸収・代謝されながら、125~150mLの一定量に保たれています。また、脳脊髄液は脳を外部の衝撃から守り、脳の老廃物の排泄、栄養因子やホルモンなどの運搬作用も担っています。

水頭症は、脳脊髄液の循環障害によって脳室が拡大し、脳を圧迫して障害が生じる病態です。水頭症には、脳室内に閉塞原因(腫瘍や血腫など)があり髄液の流れを妨げて生じる「非交通性水頭症」と、閉塞原因はないのに髄液の停滞や吸収障害などによる「交通性水頭症」があります。

交通性水頭症には、くも膜下出血や髄膜炎の後などに生じて、頭蓋内圧が上昇して頭痛や嘔吐などが出てくるものと、脳室が拡大しているのに頭蓋内圧が高くない正常圧水頭症があります。この正常圧水頭症の一部に、特発性正常圧水頭症(iNPH)があり、高齢者に好発し、認知症の原因にもなり「治療で改善できる認知症」のひとつと考えられ、近年注目されています。ここでは、iNPHを中心に述べます。iNPHの原因は明らかではありませんが、脳脊髄液の吸収が十分でなくなることで起こります。65歳以上の有病率は0.2~2.9%、罹患率は年間に人口10万人あたり約120人と報告されています。

原因

水頭症の原因としては、非交通性水頭症では、脳腫瘍、脳出血、先天性奇形などがあり、交通性水頭症では、くも膜下出血や髄膜炎などがありますが、その一部であるiNPHでは、原因となる疾患がないのに起こり、その理由はまだ明らかになっていません。

症状

非交通性水頭症のみならず、交通性水頭症でも頭蓋内圧が亢進する水頭症では、頭蓋内圧亢進症状として、頭痛、吐き気・嘔吐、片麻痺、視力障害、意識障害などが急速に現れます。しかし、iNPHでは、歩行障害、認知障害、排尿障害がおもな症状(3徴候)で、それぞれ、9割以上、8割以上、7割以上にみられるとされています。歩行障害がもっとも早くからみられ、認知障害、排尿障害が加わり、症状は徐々に進行していきます。


●歩行障害……歩く速度の低下、すり足(ひざが上がらない)、1歩の幅の減少(小刻みの歩行)、左足と右足の間隔が広くなる、転倒、歩き出しに時間がかかるなど

●認知障害……無関心、思考に時間がかかる、反応が鈍くなる、趣味などをしなくなる、集中力の低下など

●排尿障害……頻尿、尿意を我慢できない(尿意切迫)、失禁など

検査・診断

問診と、頭部CT・頭部MRI検査が行われます。画像診断で、脳室の拡大の様子や、脳脊髄液の通り道に狭窄(きょうさく)などがないかをみます。

iNPHでは症状に加えて、特徴的な3つの画像所見(脳室の拡大、脳と頭蓋骨の間が狭くなる、シルビウス裂という部分が拡大している)があれば、診断がつきます。さらに腰椎穿刺を行って脳脊髄液を約30mL排出し、症状に改善がみられるかどうかを調べる場合もあります。「脳脊髄液排除試験(タップテスト)」と呼ばれ、確定診断に用いられます。

iNPHでは、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、パーキンソン病などとの鑑別が必要です。なお、アルツハイマー型認知症との併存が約25~45%にあるという報告もあります。

治療

脳腫瘍や、くも膜下出血など、他疾患が原因の場合は、原因疾患の治療が優先されます。

水頭症に対しては効果的な薬物はないため、治療の第一選択は髄液シャント術(脳脊髄液短絡術)になります。髄液シャント術は頭蓋骨に1カ所穴を開け、太さ1~2㎜のチューブを挿入し、腹部(腸と腸の間)など、からだのほかの部位まで管を通して過剰な髄液を誘導して排出し、脳室の拡大を改善します。シャントにはいくつか方法があり、iNPHでは脳室腹腔シャント(VPシャント)、腰部くも膜下腔腹腔シャント(LPシャント)が一般的とされています。手術は全身麻酔下で行われます。

髄液シャント術の効果は、歩行機能の改善60~90%、認知機能の改善30~80%、排尿機能の改善20~80%と数字的にはバラつきがありますが、歩行機能の改善は比較的高い割合で見込めるとされています。

セルフケア

療養中

●髄液シャント術後のセルフケア

髄液シャント術を行っても、iNPHが治癒するわけではありません。シャントのチューブは引きつづき留置することになります。治療から1年間は数カ月おきに外来で経過観察をし、病状にあわせて排出する髄液の量を調整します。その後は状態にあわせ、定期的に様子をみていきます。


予防

認知障害の症状がiNPHの治療で改善されるため、iNPHは「治療できる認知症」のひとつといわれることもあります。特徴的な3つの症状がみられたら、早めに受診して必要とあれば検査を受けましょう。とくに歩行障害が早期からみられる傾向があります。

監修

昭和大学医学部 脳神経外科 名誉教授

藤本司

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