片頭痛へんずつう
最終編集日:2023/2/3
概要
1年間に頭痛を感じる人は4000万人といわれ、頭痛は身近な症状のひとつといえます。脳梗塞や脳出血など、頭痛の原因となる疾患がないのに起こるものを「一次性頭痛」と呼びます。一次性頭痛の代表ともいえる片頭痛の有病率(1年間に発症する人の対人口比率)は8.4%で、20~40代の女性に好発します。市販の鎮痛薬に効果がみられない場合には、頭痛の専門医を受診して、片頭痛に効果が見込める薬物の服用などがすすめられます。
原因
片頭痛が起こるメカニズムは、まだ十分には解明されていません。脳血管が拡張して神経を圧迫し、痛みが起こるとする「脳血管説」、脳の皮質に広がる神経に過剰興奮と抑制が起こるためとする「脳神経説」、さらに血管説に三叉神経の関与を含める「三叉神経血管説」の3つの説があり、現在では三叉神経血管説が広く受け入れられています。
また、20~40代の女性に好発すること、月経前や月経中に起こる「月経関連片頭痛」があることなどから、女性ホルモンであるエストロゲンの関与も考えられています。
●発作の誘因
くり返される発作が起こるのが片頭痛の特徴です。発作の誘因として、ストレス(強いストレス下にあるとき・ストレスから解放されたとき)、過労、睡眠過多・不足、温度差、におい、空腹、アルコール、月経周期などが挙げられます。最近は、天候(気圧)の変化による発作も注目され「気象病」と呼ばれることもあります。
赤ワイン、チョコレート、チーズ、ピーナツなどの飲み物や食品が誘因として挙げられることがありますが、根拠はないようです。ただし、片頭痛の患者さんの多くは誘因となるものを体験的に自覚していることが多く、後述する「頭痛ダイアリー」をつけて、自分にとっての誘因を探ることが必要です。
症状
片頭痛の痛みの特徴、随伴症状として、次のようなものがあります。
①頭の片側だけでなく、両側が痛くなることもある、②心臓の拍動にあわせてズキンズキンと激しく痛む、③動くと痛みが強くなる・痛みで動けないことがある、④吐き気や嘔吐を伴うことがある、⑤光や音に対して過敏になる、⑥痛みは4~72時間持続する。
約30%の人に前兆がみられることも特徴です。典型的な前兆としてよく知られているのが「閃輝暗点」という視覚性前兆です。視野内にギザギザ、キラキラした形の光が現れて徐々に拡大し、視野が遮られます。また、片側の顔や舌、からだにチクチクした感じや感覚の鈍さが現れ、徐々に拡大する感覚性前兆、言葉が出にくい・話しにくいという言語症状がみられることもあります。
いずれも5分以上持続し、60分以内に消失します。終わった後、引き続き頭痛が始まります。なお、眠気や気分の変調などの変化は、前兆には含まれません。
検査・診断
くわしい問診で、頭痛の原因となる病気の存在を否定した後(二次性頭痛の否定)、「国際頭痛分類(ICHD)」をもとに診断がつけられます。片頭痛では、上に挙げた特徴的な症状を現す発作をこれまでに5回以上経験したことがあれば、片頭痛と診断されます。
一次性頭痛にはそのほか、緊張型頭痛、群発頭痛などがあり治療法も異なるため、これらとの鑑別は重要です。
治療
片頭痛の治療は、薬と生活の見直し(発作の予防)が中心になります。軽度~中等度の頭痛であれば、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛薬)などの鎮痛薬を用います。中等度~重度の頭痛、あるいは軽度~中等度でも、鎮痛薬の効果がみられなかった場合には、トリプタン製剤などによる「片頭痛特異的治療」が行われます。痛みが強く、日常生活に支障をきたし、QOL(生活の質)が著しく低下しているような場合には、トリプタン製剤の点鼻薬や注射薬を用いることもあります。
また、片頭痛発作が月に15日以上起こる「慢性片頭痛」には片頭痛特異的治療のほか、抗てんかん薬や抗うつ薬を併用することもあります。
吐き気・嘔吐がある場合には、制吐薬を併用すると効果が期待できます。
片頭痛発作によるQOL(生活の質)の低下を改善すること、薬物乱用頭痛を防ぐことを目的に、予防療法がすすめられることもあります。予防療法を行うことで、発作の頻度・持続時間、重症度を減らすことが可能です。予防薬として保険適用になっている薬(塩酸ロメリジンやバルプロ酸など)を用いて行われます。効果判定には2カ月程度かかるため、予防療法を希望するなら早めに主治医に相談しましょう。
漢方薬(呉茱萸湯〈ごしゅゆとう〉、五苓散〈ごれいさん〉など)も片頭痛の治療・予防薬として使われており、とくに精神的ストレスの軽減、生活習慣の改善とあわせて使用され、効果が期待できます。
さらに、片頭痛の原因物質とされるCGRPに対するCGRP関連抗体薬(エムガルティなど)が、予防薬として2021年から使用できるようになりました。注射薬であり、高価であるものの、効果が期待されています。
近年問題になっているのは「薬物乱用頭痛」です。もともと頭痛を治す目的で服用している薬を飲みすぎることで、かえって頭痛が頻繁に起こるようになった状態を指します。市販薬だけでなく、処方薬でも起こる可能性があります。片頭痛などの一次性頭痛の既往がある、月の半分以上は頭痛がある、頭痛薬を月に10日以上服用している、朝から頭痛がするようになったなどがあれば、薬物乱用頭痛を疑って、専門医に相談しましょう。
セルフケア
療養中
自分の片頭痛を理解するために「頭痛ダイアリー」をつけることがすすめられます。自分の片頭痛発作がどのようなときに起こるのか、誘因は何か、薬の効果の有無、どうすれば痛みを軽減できるかなどを知るために、また薬物乱用頭痛を防ぐためにも、頭痛ダイアリーは有用です。簡単なメモ程度でもよいので、毎日記入して、通院の際に持参しましょう。
また、片頭痛は緊張型頭痛を伴っていることが多く、どこでも手軽にできる「頭痛体操」も発作の予防効果が期待できます。日本頭痛学会のサイトで紹介されているので試してみましょう。
頭痛は身近な症状であるがゆえに市販薬で抑えることが多いものですが、中等度以上の片頭痛ではあまり効果が見込めません。くり返す頭痛を抱えているなら、一度頭痛専門医を受診して診断をつけ、適切な治療を受けることをおすすめします。
監修
昭和大学 医学部脳神経外科 名誉教授
藤本 司
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