今、危惧されている「心不全パンデミック」とは
最終編集日:2024/11/25
日本では、高齢化により心不全の患者数が急増しています。現在の心不全の罹患者数は約120万人で、がんの罹患者数の約100万人を大きく上回ります。また、2030年には心不全罹患者数は130万人に達すると推計されています。このような心不全患者の爆発的な増加を、感染症の大流行になぞらえて「心不全パンデミック」と呼んでいます。
心不全パンデミックが起これば、入院治療が必要な高齢患者で医療はひっ迫し、十分な治療が受けられなくなります。こうした状況を回避するためにも、心不全を予防し、早期発見・早期治療につとめることが重要です。
●心不全とは
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送ることができなくなった状態をいいます。年齢とともに心臓の機能は低下していくため、高齢になるほど心不全を起こしやすくなります。また、心筋梗塞、狭心症、心臓弁膜症、不整脈などの心臓の病気や、高血圧症などの生活習慣病も心不全の原因になります。
心不全は徐々に進行する病気で、完治することはありません。進行すると、息切れ、足のむくみの症状が現れ、多くはこの段階で心不全と診断されます。その後、回復と悪化を繰り返しながらも進行し、入院治療回数も増え、普通に生活することが困難になっていきます。心不全は命にかかわる病気で、急性心不全で入院した人のうち、1年以内に20%が亡くなり、25%以上の人が再入院するといわれています。また、診断後の4年生存率は約55%と、がんよりも低くなっています。
●心不全の予防と、早期発見のために行うこと
心不全の予防の基本は、生活習慣の改善です。食生活では減塩や節酒をするほか、運動を習慣化させましょう。肥満解消や禁煙も重要です。このような生活習慣の改善を心がけることは心臓への負担を減らすだけでなく、心不全の原因となる心臓病や生活習慣病を防ぐことにもつながります。
そして、心不全を早期発見するためには、定期的に心臓の検査を受けることが大切です。また、息切れや足のむくみのほか、食欲不振や腹部膨満感、疲労感、体重増加など、気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
●心不全の治療
心不全の進行を抑えるためには、早期に適切な治療を受けることが重要です。治療は、心臓への負担を軽減、心臓の働きをサポートする薬物療法が基本になります。
主な治療薬としては、息切れやむくみの症状を改善する利尿薬、心臓の働きを強化させる強心薬、心臓の負担を減らすβ遮断薬、ホルモンの働きを抑えて心臓を保護するACE阻害薬、ARB、アルステロン拮抗薬などがあります。また、最近ではARNI(アーニー)、SGLT2阻害薬、イバブラジン、ベルイシグアトなどの新しい薬も登場し、心不全患者の死亡や入院を減らす効果があることが示されています。心不全に特効薬はありませんが、こうした薬によって入院を防いだり、生活の質(QOL)を改善したりすることが期待できます。
監修
国立循環器センター 心不全・移植部門 部門長
泉 知里
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