アルツハイマー病
あるつはいまーびょう

最終編集日:2022/1/11

概要

アルツハイマー型認知症は認知症のなかでも代表的な疾患で、もっとも多くみられます。脳組織にアミロイドβとタウという異常たんぱく質が蓄積してきて神経細胞が障害されて発症しますが、病理変化は発症の20年前から始まっており、症状がみられない「前臨床期」、軽度の認知症状を示す「軽度認知症期」を経て認知症、すなわち「アルツハイマー型認知症」になることが明らかになってきました。この経過全体をアルツハイマー病と呼び、認知症の発症以降をアルツハイマー型認知症と呼んでいます。

アルツハイマー病は進行性の脳の疾患で、現在、有効な治療法はありません。進行すると記憶や思考能力が障害され、単純な作業や生活上の動作も困難になります。

認知症の原因となる代表的な疾患であり、認知症のうちの約6割はアルツハイマー型認知症で、発症するとゆっくりと進行し、亡くなるまで10年以上にわたり認知症の症状が続きます。

原因

アルツハイマー病は、脳におけるさまざまな変化が原因となって発症します。

脳のなかで記憶に関係する部位にアミロイドβ、神経細胞のなかにタウという異常たんぱく質が蓄積し、まず海馬が萎縮し始めて、最後には脳全体が萎縮します。アルツハイマー病の患者さんは、脳組織にアミロイド斑や神経原線維変化がみられるほか、神経細胞シナプスの脱落による脳の萎縮がみられ、発症する20年以上前から脳の変化が始まっていると考えられます。

アルツハイマー型認知症の約90%は遺伝と関係のない孤発性アルツハイマー型認知症ですが、約10%は遺伝が関係する家族性アルツハイマー認知症で、これはプレセニリン1、2と呼ばれる遺伝子の異常など複数の原因遺伝子が明らかにされています。

そのほか、糖尿病などの生活習慣病や運動不足も誘因と考えられていますが、脳に異常たんぱく質が蓄積する直接的な原因はわかっていません。

症状

アルツハイマー病による認知症は進行性の疾患で、進行度によって症状も変化していきます。

初期の段階は軽度認知障害(MCI)と呼ばれ、少し前の出来事を思い出せない程度で日常生活に問題はありません。しかし進行とともに物忘れがひどくなり、やがて今日が何日かわからなくなる見当識障害や、段取りをつけて物事を行うことができない実行機能障害、さらに判断力の障害などが起きてきます。

しだいに自発性の減退や、うつ症状、物盗られ妄想などもみられるようになり、この段階になると徐々に日常生活に支障をきたすようになります。その後、失語、失行、失認と呼ばれる生活能力の低下が生じたり、妄想や徘徊が始まったりすることもあります。

さらに進行すると、身内の認識もむずかしくなり、多くの場合、最後には寝たきりという経過をたどります。

検査・診断

まず問診で現在の症状を把握します。アルツハイマー病の人は病識に乏しいため、家族からもくわしい状況を聞きます。

次に神経心理検査と呼ばれる認知機能検査を行います。さらにMRI検査やCT検査で脳の萎縮の状態をみるほか、PET検査ではアミロイドたんぱく質やタウたんぱく質の量や広がりがみられます。必要に応じ、脳血流SPECT検査などを行います。

MRI検査やCT検査では脳に萎縮がないかを確認し、PET検査や脳血流SPECT検査では、アルツハイマー病特有の脳機能低下の状態を確認できます。

治療

アルツハイマー病を根本的に治せる治療法はありません。ただし、脳内に不足している物質を補う薬を使って、記憶障害の進行を遅らせることができる可能性があります。

アルツハイマー病で使用される薬剤には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどがあります。2021年6月に米国で、抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブが承認され、アミロイドβたんぱく質の除去に期待が寄せられています。

うつ状態には抗うつ薬なども使用されます。幻覚・妄想には、漢方薬の抑肝散(よくかんさん)や、向精神薬を使用します。

薬による治療の効果は現時点では限定的であるため、家族と医療・介護従事者による周囲のサポート体制が重要になります。

セルフケア

療養中

家族がアルツハイマー病を発症した場合は、周囲の人が病気への理解を深めることが重要です。病状の進行による問題行動に理解を示し、本人の感情を受け止めることが大切です。

同時に、身内だけでサポートしようとしてストレスをため込まないようにすることも大切です。介護保険などの社会的資源を利用するために、早い段階からケアマネジャーに相談するようにしましょう。

予防

アルツハイマー病は治る病気ではありませんが、軽度認知障害(MCI)の段階で発見して治療を開始することで進行を遅らせることが可能です。とくに家族に認知症の人がいる場合や糖尿病などの生活習慣病がある人は罹患リスクが高いため、物忘れがひどくなってきたなどの変化を感じたら、早めに専門機関を受診するようにしましょう。

監修

昭和大学医学部脳神経外科 名誉教授

藤本司

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