心室内伝導障害
しんしつないでんどうしょうがい

最終編集日:2022/3/13

概要

心室内伝導障害は、健診などの心電図異常の具体的な項目として使われる用語です。ひとつの病気を意味する言葉ではありません。心電図には左心室内の伝導を意味するQRSという大きな波形がみられます。この波形の幅は通常80msec以下(心電図の横の長さで2mm以下)で、これが100msec以上に長くなることを「心室内伝導障害」といいます。


一般的にはQRSの形から、「左脚ブロック」か「右脚ブロック」、どちらにも分類されない「心室内伝導障害」の3つに分類されます。

心臓の拍動は心房の洞結節で発生した電気刺激が心室に伝わって起こります。心室内伝導障害がみられた場合、心室内での伝導に遅延や途絶など異常があることを意味します。

あくまでも電気の通り道の問題で、収縮力に影響するかどうかはその背景の病気しだいです。基礎心疾患がなければまったく心配がいらない場合も多数あります。


原因

心室内伝導障害の原因となる疾患をみたとき、心筋自体が障害を受け、その結果として電気の通り道も障害を受ける心筋梗塞や心筋症といった病気がもっとも怖く重要です。


ほかには、高血圧や肺高血圧といった、病態による心負荷から生じることもあります。薬物、感染症などが原因の場合、原因が除去されると戻る場合もあります。


反対に生まれつき右脚ブロックという人もいます。重要なことは、“以前とくらべて変化があったかどうか”ということです。昔から心電図異常があり変化がないのであればあまり心配はいりませんが、これまでずっと心電図異常がなかったのに、初めて指摘された場合は注意が必要です。背景に病気が隠れていないかどうかを必ず医療機関で調べてもらいましょう。


心室内伝導障害は、障害が生じている部位によって、脚ブロック(右脚ブロック、左脚ブロック)、分枝ブロック(左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロック)、2枝ブロック(右脚ブロックに左脚前枝ブロックか左脚後枝ブロックのいずれかが合併した状態)、3枝ブロック(2枝ブロックに心房から心室への伝導が障害される房室ブロックが合併した状態)、非特異的心室内伝導障害(右脚や左脚より先の末梢の線維と心室筋肉接合部の障害)などに分類されます。


右脚ブロック、分枝ブロック、非特異的心室内伝導障害は、基礎疾患が原因で起きる場合もありますが、原因不明の場合がほとんどです。左脚ブロックは、背後に心筋梗塞や心筋症などが隠れていることが多いといわれています。


症状

右脚ブロックは健康な人にもよくみられます。とくに高齢者では頻度が高くなるといわれています。無症状のケースも少なくありません。子どもでは心房中隔欠損症に合併する場合や、大人では、肺塞栓や肺高血圧症に伴う右室負荷の結果が認められることがあります。左脚分枝ブロックと非特異的心室内伝導障害についても、あまり病的な意義、つまり症状もないことが多くみられます。


これに対し左脚ブロックは、それなりの心筋障害を受けた結果として起きる現象のため、心筋梗塞や心筋症などが隠れている場合が多く、注意が必要です。ただ単に左脚ブロックということだけでは症状はありません。左心室の心筋の収縮が一律でなく、一部で遅れを生じるため、心筋がいびつな動き方になりポンプ機能が低下することになります。このための心不全症状を呈することがあります。


なお、右脚と左脚前枝または後枝の2枝がブロックされるケースを2枝ブロックといいます。残り1枝しかなく、残り1枝もブロックされると完全房室ブロックといって、失神や突然脈が遅くなることになります。あまり多くのケースではありませんが、この場合、ペースメーカーの植込みが必要となります。


検査・診断

心室内伝導障害の検査・診断では、問診、心臓超音波検査、ホルター心電図検査などが行われます。そのほかにも基礎疾患の有無を確認するための検査などが行われます。

治療

右脚ブロックの場合、心疾患を疑う症状がなく、かつ基礎疾患もなければ、治療も運動制限も必要ありません。基礎疾患として、冠動脈疾患、高血圧性心疾患、リウマチ性弁膜症、肺性心、先天性心疾患などが認められる場合があります。この場合も右脚ブロック自体の治療は必要なく、基礎疾患に対して治療が行われます。

分枝ブロックと特異性心室内伝導障害についても同じです。

左脚ブロックの場合には、背後に心疾患などが隠れていることが多いため、精密な検査を行い、原因を把握することが重要とされています。背後に、心筋梗塞、心筋炎、強い大動脈弁石灰化、サルコイドーシス、左室肥大に伴う高血圧性心疾患などの心筋障害が認められた場合には、それらの治療が行われます。左脚ブロックに伴い心不全を併発している場合、両心室ペースメーカーという治療を行う場合があります。

基礎疾患がはっきりしない場合も、心機能が良好で心疾患の兆候などがなければ過度に心配する必要はありません。ただし定期的に診察を受け、経過観察をすることが必要です。


セルフケア

予防

心室内伝導障害は原因疾患がなくても起きることがあり、治療を要しないケースもみられますが、背後に基礎疾患が隠れている場合があるため、医療機関で検査をしておくと安心です。

左脚ブロックは心疾患が原因となっている場合が多くあるため、専門医できちんと調べてもらいましょう。


監修

神奈川県立循環器呼吸器病センター 循環器内科 部長

福井和樹

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