成人T細胞性白血病せいじんてぃーさいぼうせいはっけつびょう
最終編集日:2025/12/8
概要
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)は、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)というウイルスに感染することで発症する血液のがんです。白血球の一種であるT細胞がHTLV-1に感染してがん化し(ATL細胞)、増殖します。病状の現れ方は患者さんによって異なり、血液中でがん細胞が増える「白血病」の性質が強いタイプや、リンパ節でしこりをつくる「悪性リンパ腫」の性質が強いタイプなどがあります。感染者のすべてが発症するわけではなく、HTLV-1感染者のうち生涯でATLを発症するのは約2~5%といわれています。
原因
原因はHTLV-1ウイルスへの感染です。主な感染経路は母乳による母子感染です。感染から発症までは約30~50年以上という長い潜伏期間があります。感染していても発症していない人を「キャリア」といいます。
症状
病型によって症状は異なりますが、首、わきの下、足のつけ根などのリンパ節の腫れ(しこり)がみられることがあります(主にリンパ腫型)。免疫機能が低下するため、感染症にかかりやすくなったり、発熱や全身のだるさが現れたりします。また、がん細胞から分泌される物質の作用で、骨からカルシウムが溶け出して血液中のカルシウム値が高くなることがあり、これに伴って激しい口の渇き、多尿、吐き気、意識障害などが起こることもあります。皮膚にがん細胞が及ぶと、発疹やしこりが現れます。
検査・診断
血液検査でATL細胞(特徴的な形の異常なリンパ球)の有無やHTLV-1抗体を調べます。リンパ節の腫れがある場合は、その一部を採取する生検を行います。病気の広がりをみるためには、CT検査などの画像検査を行います。骨髄への広がりを調べる骨髄穿刺(マルク)や、中枢神経への広がりを調べる脳脊髄液検査を行う場合もあります。
確定診断には、異常なリンパ球がもともと1つの細胞から増えた(=クローン性増殖した)がん細胞であるかを調べる検査が重要です。これには、サザンブロット法という検査を用い、HTLV-1ウイルスが異常リンパ球のDNAの同じ場所に入り込んでいるかを確認することで判断します。
ATLは、これらの検査をもとに、以下の4つの病型に分類されます。
●急性型
血液の中で異常なリンパ球(がん細胞)が増え、発熱・皮膚症状・肝脾腫、感染症など 全身の症状が出て急速に進むタイプで、早期の治療が必要です。
●リンパ腫型
がん細胞が主にリンパ節の中で増え、しこり(リンパ節腫大)として現れるタイプ です。進行は急性型と同じく早いため、通常、速やかな治療が必要です。
●慢性型
血液中にがん細胞はみられますが、進行は比較的ゆっくりです。ただし、病状が悪化して急性型に移行することがあるため、注意深い経過観察や必要に応じた治療が行われます。
●くすぶり型
血液中の異常リンパ球は 少量で、自覚症状がほぼないか、あっても皮膚や肺などの 軽い病変に限られるタイプです。治療せずに経過観察となることも多いですが、病状が変化する場合があり、定期的なフォローが重要です。
治療
ATLの治療は病型によって異なります。「急性型」や「リンパ腫型」など進行の速いタイプでは、まず複数の抗がん剤を組み合わせた多剤併用療法(mLSG15療法など)が標準的に行われます。近年では、ATL細胞の表面にあるタンパク質を狙い撃ちにする分子標的薬(モガムリズマブなど)に加えて、再発や難治の患者さんに対して新しい薬(バレメトスタット、レナリドミドなど)も使用されるようになっています。しかし、薬物療法だけでは再発の可能性が残るため、年齢や体力などの条件が整えば、根治を目指して造血幹細胞移植が検討されます。
一方、「慢性型」や「くすぶり型」のように進行が緩やかで症状が少ない場合には、すぐに治療を始めずに、病状の変化を慎重にみながら経過観察を行い、必要に応じて治療を開始するのが一般的です。
セルフケア
予防
ATLの原因となる HTLV-1 は、次の世代への感染を防ぐことが大切です。とくに母子感染は発症リスクが高いため、母親が HTLV-1キャリアである場合には、人工栄養(粉ミルク)を選ぶことで赤ちゃんへの感染を大きく減らすことができます。過去には短期間の母乳や凍結母乳が検討された時期もありましたが、現在では完全人工栄養が最も推奨されています。
輸血については、1986年からすべての献血血液で HTLV-1 抗体検査が実施されているため、輸血を介した新たな感染はきわめてまれになっています。
また、性行為で感染することもあるため、パートナー間での感染を防ぐ目的でコンドームの使用が推奨されますが、成人になってから感染した場合の ATL 発症リスクは、母子感染に比べて低いとされています。
なお、HTLV-1 は日常生活では感染しないため、くしゃみや汗、食器やタオルの共用、お風呂などで家族や周囲の人にうつる心配はありません。
監修
東海大学 医学部血液腫瘍内科 教授
川田浩志