多発性骨髄腫
たはつせいこつずいしゅ

最終編集日:2023/5/18

概要

骨の中にある骨髄では、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞がつくられています。白血球のBリンパ球(B細胞)もそのひとつで、成熟すると形質細胞になります。形質細胞は体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃する抗体をつくって感染を防ぐ働きをしています。多発性骨髄腫は、この形質細胞ががん化して骨髄腫細胞となって増殖し、Mたんぱくという免疫機能をもたない免疫グロブリン(抗体)、ないしはその一部分を産生しつづけます。

人口10万人あたり約5人の発症率で、血液のがんの約10%、全悪性腫瘍の約1%を占めるとされています。60歳以上の高齢者に好発します。

多くは単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)や、くすぶり型骨髄腫(SMM)という病態を経て、多発性骨髄腫を発症します。MGUS、SMMはいずれも多発性骨髄腫に類似した検査結果を示すものの、無症状であったり、多発性骨髄腫の診断基準には至らない状態にあったりします。

原因

なぜ形質細胞ががん化するのかは、まだわかっていません。

症状

多発性骨髄腫の代表的な症状をCRAB(クラブ)と呼ぶことがあります。Cは高カルシウム血症、Rは腎機能障害、Aは貧血、Bは骨病変を指します。

骨髄腫細胞は骨の破骨細胞を活性化するため、ちょっとしたことで骨折しやすくなり(病的骨折)、また骨に含まれるカルシウムが血液中に漏れ出て高カルシウム血症をひきおこします。病的骨折はもっとも多くみられる症状です。高カルシウム血症では、倦怠感、異常なのどの渇き、多飲、めまい、頭痛、食欲不振、便秘などが現れます。

Mたんぱくの増加により、腎機能障害や、血液の粘度が増すために過粘稠度症候群(かねんちょうどしょうこうぐん:めまい、頭痛など)が起こります。Mたんぱく由来のアミロイドたんぱくが心臓、腎臓、消化管などのからだの臓器・組織に沈着し、それぞれの働きを障害するALアミロイドーシスを起こすこともあります。

骨髄腫細胞の増殖によって正常な血液細胞の産生が抑えられるために、動悸、息切れ、倦怠感などの貧血症状や、鼻血や歯肉からの出血などが現れます。また、正常な免疫グロブリンの減少により、易感染性の状態(細菌やウイルスに感染しやすくなること)になることもあります。

明らかな自覚症状がなく、健康診断や他疾患の検診・検査の際の血液検査や尿検査で異常を指摘されて、精査ののちにMGUS、SMM、多発性骨髄腫と診断される場合もあります。

検査・診断

確定診断と、いくつかある多発性骨髄腫の型の特定のために、血液検査、尿検査、骨髄検査、X線、CT、MRI、PETなどの画像検査が行われます。

診断には、国際骨髄腫作業部会(IMWG)の診断基準が用いられています。①骨髄中の骨髄腫細胞の存在、割合、②血中、尿中のM たんぱくの存在、割合、③MRIやCTで骨病変(圧迫骨折、骨折、溶骨病変など)の存在、④CRABなどの骨髄腫診断事象(MDE)を認める、などの項目があり、多発性骨髄腫の型によって基準値などが異なります。

ほかの白血病や膠原病、肝炎などでもMたんぱく血症を現すことがあるため、鑑別が重要になります。

治療

MGUS、SMMは、通常、まず慎重に経過観察を行い、検査値や症状に変化がみられて、多発性骨髄腫に移行した場合に治療を開始しますが、近年、一定の条件を満たす場合には治療をより早期から開始することが推奨されるようになってきています。

多発性骨髄腫では、全身の骨髄腫細胞を減らして臓器障害を改善することを目的に、最初に薬剤投与による寛解導入療法を行います。骨病変などに対する放射線治療が併用される場合もあります。

その後、65~70歳以下で全身状態がよく、臓器の機能が維持できていれば、自家末梢血造血幹細胞移植が考慮されます。


●寛解導入療法

以下のような薬剤を複数組み合わせて行われます。それぞれに副作用があるため、患者さんの年齢、全身状態などを考慮して選択されます。

・プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブなど)……骨髄腫細胞の代謝にかかわるプロテアソームという酵素を阻害して、骨髄腫細胞の増殖を抑制します。

・免疫調整薬(レナリドミドなど)……免疫を調整するとともに、腫瘍がつくりだす新生血管を抑制して抗腫瘍効果を発揮します。

・抗体薬……骨髄腫細胞の表面にある抗原に結合して、抗悪性腫瘍効果を発揮し、増殖を抑制します。抗CD38抗体(ダラツムマブなど)、抗CS-1抗体(エロツズマブ)などがあります。

・ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬……HDACという酵素の異常な活性化を抑制して、抗腫瘍効果を発揮します。パノビノスタットなどがあります。

・ステロイド……デキサメタゾン、プレドニゾロンなどがあります。

・抗腫瘍薬……アルキル化薬のメルファランなどが用いられます。


●自家末梢血造血幹細胞移植

体内に残った骨髄腫細胞を限りなく減らすために、メルファランなどの抗腫瘍薬を大量に投与した後、あらかじめ採取・保存しておいた患者さん自身の造血幹細胞(血液細胞の元になる細胞)を体内に戻す治療法です。


●再発時の治療

近年、新薬が複数登場し、治療成績が向上しています。しかし一方では、治療に抵抗性を示したり、再発するケースも多くみられます。その場合には、異なる薬剤の組み合わせなどで治療を行います。再び、自家末梢血造血幹細胞移植が選択される場合もあります。

セルフケア

療養中

全身抗がん剤治療中は、感染症にかからないように注意しましょう。また、骨折しやすいため、転倒にも気をつけましょう。

監修

東海大学 医学部血液腫瘍内科 教授

川田浩志

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