移動精巣いどうせいそう
最終編集日:2023/1/19
概要
精巣(睾丸)は、胎児の頃に腹腔内(腎臓付近)でつくられ、それが徐々に鼠径部(足のつけ根の下腹部)へと下降して、生まれる頃に陰嚢に到達します。移動精巣は、精巣を挙上させる筋(精巣挙筋)の過剰反射や陰嚢に下りてきた精巣の固着が弱く不十分なため、上に移動しやすくなっている状態をいいます。
精巣の大きさや陰嚢の発達は正常で、精巣の下降が止まってしまい、鼠径部や腹腔内にとどまってしまう停留精巣とは異なり、睾丸が体内にとどまっている時間が短いため、将来、子どもをつくる能力(妊孕性:にんようせい)が低下したり、悪性化のリスクも低いとされています。ただし、精巣の位置が高かったり、長時間に及んだりすると、睾丸を陰嚢に固定する手術が必要になることもあります。
原因
移動精巣は、精巣の下降は正常に行われたものの、妊娠後期の精巣の陰嚢への固定が弱いことが原因で起こります。また、精巣は、触る、寒い、運動、性的興奮などの外的刺激が加わると、精巣挙筋が収縮して、精巣は腹腔側に引き寄せられます(精巣挙筋反射)。これは精巣を守ろうとする防御反射で、この反射が強いと精巣が動きやすく、鼠径部まで引き上がり、移動精巣の原因のひとつといわれています。
症状
痛みといった自覚症状はありません。精巣は上がっても鼠径部までのことがほとんどで、精巣に触ることができ、つかんで陰嚢まで引き下ろすこともできます。合併症のリスクとしては、精巣が固定されていないため、精巣捻転を起こしやすくなります。
検査・診断
移動精巣の検査では、停留精巣との鑑別が重要となります。まず問診で、停留精巣の家族歴や遺伝性疾患の有無、さらに新生児健診や乳児健診の際に精巣に触ることができたか、日常生活においても触れるかなどを確認します。次に触診を行い、実際に精巣に触れるかどうかを確認します。この際、緊張したり寒くなったりすると、精巣が腹腔内に上がること(挙睾筋反射)があるので、気持ちを落ち着かせ、温めながら診察を行います。この触診で精巣に触ることができない場合は、超音波検査やMRI検査を行うことがあります。
治療
移動精巣の治療は、思春期前には精巣が陰嚢内に固定されることが多いため、基本的には経過観察となります。しかし、停留精巣との鑑別がむずかしい場合や、年齢が進んでも精巣が挙上した状態でとどまることが多い場合は手術を検討します。
手術では、精巣につながっている精管と血管を包む膜を剥がし、精巣を下ろして陰嚢に固定します。なお、手術の適応は、1日のうちでどのくらい上がった状態になるか、精巣発育の状況によって判断しますが、性行為、不妊などで問題が生じていないかも参考にします。移動精巣の所見があっても、性行為、不妊などで問題を生じていなければ経過をみることもしばしばあります。
セルフケア
予防
精巣は触った刺激や寒さ、怖い思いをしたときなどに上のほうに移動しやすくなります。寝ているときや入浴時などのリラックスしているときに陰嚢内に精巣を触れるかどうかが重要となります。このときに毎回でなくても陰嚢内まで精巣が下りてきていれば移動精巣の可能性が高くなります。もし、常に精巣が触れない場合は停留精巣の可能性があるので、この場合は手術を含めた治療が必要となることがあるので、かかりつけ医や小児科を受診しましょう。
監修
小山嵩夫クリニック 院長
小山嵩夫
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