悪性胸膜中皮腫
あくせいきょうまくちゅうひしゅ

最終編集日:2025/12/19

概要

肺には胸膜という薄い膜があります。胸膜の表面にある中皮細胞に発生するがんが悪性胸膜中皮腫です。悪性度の高い腫瘍であることが特徴です。

悪性胸膜中皮腫は進行度合いによって、がんの広がり方、隣接する臓器やリンパ節などへの転移の有無などに違いがあります。

・Ⅰ期

がんが片側の胸膜内にとどまっている

・Ⅱ期

がんが胸膜内から肺や横隔膜へと広がり、胸膜内リンパ節への転移もある

・Ⅲ期

Ⅱ期より外側の胸壁や心膜までがんが広がり、反対側の縦隔リンパ節への転移が起こっている

・Ⅳ期

腎臓や肝臓などの他臓器や対側の胸膜への転移がみられる

原因

アスベスト(石綿)が原因で発症すると考えられています。アスベストを取り扱う事業所に従事していた人や、アスベストを取り扱う事業所の近隣住民などにも多くみられます。家族内曝露(作業衣からの二次曝露)もあります。

アスベストを吸ってから発症するまでの期間は20~50年と長く、そのため高齢の患者が多いことも大きな特徴です。通常、人のからだは異物を吸い込んでもせきやたん、粘膜などの働きによって異物を排出しますが、アスベストの繊維はきわめて細く、吸引すると肺内に蓄積するといわれています。取り込まれたアスベストの長期的な刺激により、悪性腫瘍が発生すると考えられています。

症状

胸水の増加に伴う激しい胸の痛み、せき、呼吸困難、胸の圧迫感、体重減少、食欲低下などの症状が現れます。

検査・診断

胸部X線検査やCT検査を行い、胸水がたまっている、胸膜に腫瘤がある、胸膜が不規則に厚くなっているといった所見が認められると悪性胸膜中皮腫を疑います。

続いて胸腔鏡検査で胸膜に異常がみられる部分を採取して生検を行います。確定診断のために病理診断(免疫染色)を行います。

治療

治療は、病期や全身状態に応じて手術、薬物療法、放射線療法、緩和療法を組み合わせて行います。現在は、免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法が初回治療の中心となっており、がんの進行を抑え生活の質を保つことを目的として行われます。手術は、病変が片側の胸膜に限局した一部の早期例で検討されますが、適応となる患者さんは多くありません。薬物療法としては、免疫療法が難しい場合に従来の化学療法(ペメトレキセドと白金製剤の併用)が選択されることもあります。放射線治療は痛みや圧迫症状を和らげる目的で行われ、胸壁痛などの症状緩和に有効です。また、悪性胸膜中皮腫では胸水、胸痛、息切れなどの症状が出やすいため、診断初期から緩和ケアを併用し、痛みの調整や胸水処置、呼吸リハビリ、在宅酸素療法などによって日常生活を支えることが重要です。

セルフケア

療養中

治療期間中は、痛みやだるさ、息苦しさなどの病気に伴う症状だけでなく、免疫療法や化学療法による副作用が出ることもあり、心身ともにストレスのかかりやすい状態に陥ります。つらいと思うときには無理にがまんせず、緩和療法で症状をやわらげたり医療スタッフや周囲の人に相談したりしながら、ストレスの軽減を図りましょう。呼吸リハビリや在宅酸素療法、栄養サポートなどもあります。

予防

過去にアスベストにかかわる仕事に就いていた人やその家族、アスベスト関連の事業所近くに住んでいた人などは、将来的に悪性胸膜中皮腫や肺がんを発症する恐れがあります。

アスベストを吸引した可能性がある場合には、厚生労働省の相談窓口や呼吸器内科へ相談してみましょう。労災保険給付などを受けられる制度があります。また、「石綿健康被害救済制度」があり、労災対象外の人も救済される可能性があります。


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監修

山形県立新庄病院

岸 宏幸