SAPHO症候群さふぉしょうこうぐん
最終編集日:2025/3/24
概要
おもな症状として、骨・関節と皮膚に病変が現れる状態を指します。滑膜炎(S:synovitis)、ざ瘡(A:acne)、膿疱(P:pustulosis)、骨化過剰症(H:hyperostosis)、骨炎(O:osteitis)の特徴を示すため、それぞれの頭文字をとって名前がつけられました。
海外での発症頻度は約1万人に1人、国内では約1000万人に2.85人と、非常にまれな病気と考えられますが、適切な診断がむずかしいケースもあり、患者数は予測されるよりも多いのではないかともいわれます。30~50歳代に好発し、女性に多くみられます。
原因
原因は明らかになっていません。
遺伝的要因、扁桃炎・歯周病などの慢性的な感染症、アレルギー、喫煙、免疫機能の異常などが関与すると考えられています。
症状
骨・関節、皮膚の症状が、慢性的にくり返されます。皮膚症状が先行するものが約60%、骨・関節症状が先行するものが約30%、同時に起こるものが約10%といわれます。しかしSAPHO症候群は骨・関節の病態が主であり、成人の約15%、小児の約70%は骨・関節症状のみで、皮膚症状はみられないとされています。
●骨・関節症状
骨・関節の症状は、画像上で異常が診断されても、一般的には潜行性(症状として感じられない)です。しばしば骨周辺や関節の炎症による痛みが現れます。最も頻度が高いのが胸の前側の痛みで、胸骨と鎖骨をつなぐ胸鎖関節や胸骨の接合部、胸椎に炎症が起きます(約65~90%)。そのほかの脊椎や骨にも病変が現れ、ひざ(ひざ関節)、腰部(腰椎)、頸部(頸椎)、殿部(仙腸関節)、顎(下顎骨)、手足・指の関節などにも痛みが起こります。
骨は炎症や骨溶解、骨化過剰症(骨が硬く増殖する)の状態となり、進行によって疼痛、腫れ、熱感などもくり返されます。
●皮膚症状
手のひらや足の裏に水疱が現れ、うみをもった膿疱になる「掌蹠膿疱症」が多くみられます(約50~75%)。一般的ににきびと呼ばれる「ざ瘡」の重度のものや、紅斑やかさぶた(鱗屑)がくり返しできる「乾癬」も現れます。
検査・診断
症状などの問診のほかに、X線検査、CT、MRI、骨シンチグラフィなどの画像検査で、骨や関節の状態を精査します。骨・関節病変の診断において、骨髄炎や腫瘍などとの鑑別のために骨生検(骨病変の組織を採取して病理検査する)が必要になることもあります。
SAPHO症候群を合併しない掌蹠膿疱症や乾癬、感染性骨髄炎、関節リウマチ、骨腫瘍、びまん性特発性骨増殖症などとの鑑別が重要です。ただし、判別がむずかしい症例も少なくありません。
治療
根治療法はまだ確立されていません。症状の緩和(対症療法)と、骨・関節の変形の阻止・予防、合併症のリスクの軽減を目標に薬物療法が行われます。
症状や進行度にあわせて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの消炎鎮痛薬、ステロイド、抗リウマチ薬、ビスホスホネート製剤などの骨粗鬆症薬、TNF阻害薬、皮膚症状の改善薬であるレチノイド製剤、抗菌薬などを用います。
また、扁桃炎や歯周病、アレルギー、喫煙との関連が考えられることから、扁桃摘出術、歯周病治療、アレルゲンの特定と排除(金属アレルギーの場合が多い)、禁煙なども並行してすすめられます。
セルフケア
療養中
SAPHO症候群は寛解(完治ではないが病状が落ち着いた状態)と再発をくり返す慢性疾患です。定期的な受診と治療の評価を継続する必要があります。
病状が安定していれば、ふだんどおりの生活を送ることも可能です。痛みなどの症状がコントロールされている時期には、積極的にからだを動かすことなどで、筋力の低下を防ぎましょう。
掌蹠膿疱症や乾癬などの皮膚症状に関節痛が伴う場合は、早めに皮膚科や整形外科、リウマチ科、膠原病科などを受診します。また、皮膚症状がみられないケースも少なくないため、胸椎など骨や関節の痛みがある、画像検査で異常を指摘されたなどの場合も、早めの整形外科受診がすすめられます。
監修
東馬込しば整形外科 院長
柴 伸昌