アルツハイマー型認知症の注目の新薬「レカネマブ」
最終編集日:2023/9/21
9月21日は「世界アルツハイマーデー」。世界各地でアルツハイマー病および認知症に関する啓蒙活動が行われます。今年はアルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」も注目を浴びています。どのような薬なのか解説しましょう。
●認知症の原因物質を除去する初めての治療薬
アルツハイマー病は、認知症を引き起こす代表的な病気で、認知症全体の約7割を占めるといわれています。この病気は、アミロイドβ(ベータ)というたんぱく質が脳に蓄積することで脳の神経細胞が壊れ、認知機能の低下を起こすと考えられています。新薬のレカネマブは原因物質であるアミロイドβを除去する効果がある薬です。13カ国の1800人が参加して18カ月にわたって実施された臨床試験(治験)では、アミロイドβが著しく減少することが確認されています。
このような、病気の原因に直接働きかける「疾患修飾薬」は今までありませんでした。アルツハイマー病に現在使われている4種類の治療薬は、脳の神経伝達物質を増やすなどの効果があり、一時的な改善が期待されるもので「疾患修飾薬」ではありません。
レカネマブ投与群では、記憶や判断力などの認知機能や身体活動などの症状の悪化の程度に、プラセボ(偽薬)投与群と比較して27%の抑制がみられました。これは症状の進行を5.3カ月遅らせることになります。しかし、このように認知機能の低下を大幅に遅らせたり、認知機能を向上させたりする効果は今のところ確認されていません。投与の開始時期や期間など、今後の研究が待たれます。
●投与方法は2週間に1回の点滴
レカネマブは飲み薬ではなく、静脈への点滴で投与する薬です。2週間に1回、通院して投与を受ける必要があります。
副作用については、アミロイドβが除去される際に炎症が起こって脳がむくむ「脳浮腫」が12.5%、血管が破れる「脳出血」が17%(多くは軽症から中等症)出現することが、治験で確認されています。そのため、投与前に出血傾向の有無を調べたり、血栓を溶かす薬を服用する人への注意喚起など、副作用のリスク管理をどうするかなどの課題もあります。
レカネマブが適応されるのは、アルツハイマー病の初期、あるいは軽度認知症(MCI)の人です。中等度以上に進行したアルツハイマー病の人に対する効果は確認されていません。
●年間300万円以上?! レカネマブは高額な薬
レカネマブは、日米の製薬企業が共同開発した薬で、2023年8月に厚生労働省の専門部会でその製造販売承認が了承されました。今後は厚労省の正式承認を経て、保険適用についても議論される見通しです。レカネマブは大変高額な薬で、日本よりも早く承認された米国での発売価格は、患者さん1人あたり年間2万6500ドル(約390万円)です。日本でも年間300万円以上になると予想され、保険適用になれば1〜3割負担、さらに高額療養費制度によって患者さんの負担が軽減される可能性があります。今後の動向が注視されています。
※2023年9月20日時点の内容です。
監修
昭和大学 医学部脳神経外科 名誉教授
藤本 司
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