がんのメカニズムと要因

最終編集日:2022/1/28

概要

1981年に日本の死亡原因第1位になった「がん」は、それ以来その座を譲ることなく現在に至っています。2人に1人が一生のうちに何らかのがんにかかり、日本人の“国民病”ともいわれています。
かつては“不治の病”などと恐れられていたこともありますが、診断技術や治療方法の進歩により、早期発見ができれば完治と呼べる状態になるケースも多くなってきています。さらに遺伝子解析などの最新手法で、がんのメカニズムの解析が遺伝子レベルで急ピッチに進んでいます。
一方で「がんにならない」、つまり予防に関する新たな情報や手法も広く知られるようになりました。
がんは、治療のむずかしい病気です。放っておけば死に至る病気であることに変わりはありません。だからといって、やみくもに恐れるのではなく、正しい情報を得て“きちんと恐れる” “しっかり予防する”、そういう病気へと認識を改めるときが来ています。

メカニズム

がんは、からだのなかにある遺伝子に異常が起こる病気です。人のからだは60兆個余りの細胞からできていて、それぞれの細胞には「核」があります。核にはからだを構成する情報がつまったDNA(デオキシリボ核酸)、つまり遺伝子があります。人のからだは常に細胞分裂をくり返していますが、この分裂の際に異常が起きてしまうことがあります。これががんの芽です。
しかし私たちのからだには、こうした異常を修正、排除する働き(自己免疫機能)がもともと備わっていて、がんの芽の発生を常に監視し、発見するとすぐに排除するようにプログラムされています。この自己免疫機能のおかげで、がんの発生から守られています。
ただ加齢や体調不良、ほかの病気などによって自己免疫機能が低下すると、発生したがんの芽をすぐに排除することができなくなり、徐々にがんの芽が増え、がんに成長していくのです。
多くのがんは長い時間をかけ、いくつもの複雑な段階を経て成長していくので、検査などで発見されたときにはすでに十数年が経過していることも少なくありません。成長したがんは無秩序に増えながら周囲の組織や臓器に広がり、さらに全身に移動して増殖をくり返していきます。つまりがんは特別な病気ではなく、だれもが発症リスクを抱える病気なのです。

リスク要因

がんは遺伝子の異常が原因で起こる病気ですが、遺伝性の病気というわけではありません。一部のがんを除いたほとんどが、後天的な環境要因によるものと考えられています。
環境要因には、食事や喫煙などの生活習慣、加齢、紫外線、発がん性物質などが挙げられます。
ただ、どれががんの発生に結びつくかは一人ひとり異なり、どれかひとつであるともいえません。がんの発生には複数の要因が複雑に関係していると考えられています。


食事や運動、喫煙などの生活習慣

がんのリスク要因として影響が大きいのが生活習慣です。なかでも「喫煙」と「食事」はとくに影響が大きいと考えられます。
たばこはすべてのがんの発生に関係し、がん以外にも心筋梗塞や狭心症などの心疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患など多くの病気のリスク要因になっています。長年喫煙してきた人でも、禁煙することでリスクが低下することは科学的に証明されています。そのため禁煙はすべての喫煙者に効果が期待できます。
食事では、塩分や脂質のとりすぎ、食べすぎや偏った食事、不規則な食生活、過度な飲酒などがリスク要因になります。バランスのよい食事を一日三食とることがリスクの軽減につながります。
ほかにも、運動不足やからだを清潔にしないなどの生活習慣もリスクを増大させます。


ウイルスや体格、加齢などの生物学的要因

肝臓がん子宮頸がん胃がんなどは、ウイルスや細菌の感染ががんの原因になります。また肥満や体重増加、高身長などの体格もリスク要因となることがわかっています。
こうした要因とは別に、加齢も大きなリスク要因です。年をとるとからだのさまざまな部位で老化現象が起こりますが、これは細胞の老化です。つまり加齢によって、遺伝子異常が起こりやすくなり、がんの発生を抑える自己免疫機能が低下していることを示しています。


放射線、紫外線などの物理的要因 

大きなエネルギーをもつ放射線や太陽の紫外線も、遺伝子に影響を与えると考えられているため、リスク要因に挙げられます。
放射線は自然界にも存在しますが、健康診断などで行われているX線検査、CT検査、PET検査、マンモグラフィでも放射線が使われています。ただ、検査で用いられる放射線は、安全値よりもさらに低く抑えられているので、心配しすぎる必要はないと考えられています。


発がん性物質などの科学的要因

ベンゼンやホルムアルデヒド、ダイオキシンなどの化学物質もがんのリスク要因に挙げられます。特定の職業に暴露する環境があるケースが多いといわれてきましたが、近年では職場環境が改善され、発がんの可能性のある化学物質は使用禁止となり、リスク要因は軽減されています。

リスク要因と部位別がんの関係

がんの発生には、喫煙、食事、飲酒、運動、ウイルスなどさまざまなリスク要因が関係しています。いろいろな調査や研究から、それぞれのリスク要因に関係して、どの部位のがんが発生しやすくなるのかがわかってきました。


喫煙

もっともリスクが大きいのが肺がんです。ただし、喫煙はほかの多くのがんとの関係性も認められています。がん患者のうち、男性で30%ほど、女性で5%ほどが喫煙が発生原因になったという調査があります。


食事・飲酒

直接のリスク要因がわかっている食品は少ないのですが、牛や豚、羊などの赤肉や加工肉が大腸がんのリスクを上げるとの報告があります。また、塩分が多い塩蔵食品は胃がんのリスクを上げる可能性が高いとの報告があります。
過度の飲酒は消化器系の臓器がんのリスクとなる可能性が高く、とくに喫煙者の飲酒は、食道がんや大腸がんだけでなく、がん全体の発症リスクを高めることもわかっています。


ウイルス(細菌)感染

ウイルス感染がリスク要因となるケースでは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによる肝臓がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ(細菌)による胃がんなどがあります。ほかには、悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、成人T細胞性白血病などもウイルスが原因です。


体格

肥満は、食道がん膵臓がん肝臓がん大腸がん、閉経後の乳がん腎臓がんとの関係が報告されています。
高身長は、大腸がん、乳がん、卵巣がんなどとの関係が指摘されています。


化学物資

化学物質がもっともリスク要因となるのは肺がんです。アスベストによる肺がんの発生は有名です。ほかにも皮膚や鼻腔や喉頭、胸膜、尿路など化学物質と直接触れたり、吸引や排出に関係したりしている臓器に多く発生しています。

リスクを下げる生活習慣

がんを発生させないようにするのはむずかしいことですが、リスク要因を減らすことで、がんになりにくいからだをつくることはできます。がんリスクを下げる生活習慣には次のようなものがあります。


たばこを吸う人は今すぐ禁煙を

喫煙は多くのがんの発生リスクを上げることがわかっています。全体的にみて、吸わない人に比べて1.5倍ほど発生リスクが高まるとの報告があります。また、受動喫煙もリスクが高まるので、喫煙者本人だけでなく、周囲にいる吸わない人の健康をも害することになります。


節度ある飲酒を

多量の飲酒は食道がん大腸がんのリスク因子となり、乳がんのリスクも高くなるという報告があります。飲酒における適切な量は、多く見積もっても1日あたり、日本酒は1合、ビールは大瓶1本、焼酎・泡盛 は1合の2/3、ウィスキー・ブランデーはダブル1杯、ワインはボトル1/3程度です。


食生活を見直す

塩分のとりすぎ、野菜や果物不足、熱いまま飲み物や食べ物をとるなどが、がんのリスクになることが明らかになっています。
毎日の食生活で、「塩分を控える」「野菜と果物を積極的に食べる」「熱いまま飲み物や食べ物をとらない」などを守りましょう。
一日三食、時間を決めて食べること、食べすぎや偏りをなくした食生活を送ることを心がけてください。


適度な運動習慣をもつ

適度な運動習慣を継続している人は、がん全体の発生リスクが低くなるという報告があります。新たに運動習慣を加えるのもいいですが、毎日の生活のなかでからだを動かす時間を増やしていく工夫をすることも、がんのリスクを下げることにつながります。


肥満には十分注意する

男性はBMI値が21.0~26.9、女性は21.0~24.9ががんの死亡リスクが低いことがわかっています。適正体重を保つようにしてください。


感染リスクを下げる

ウイルスや細菌感染ががんの原因のひとつであることを知ってください。定期的な検査で感染が判明したときは、専門医の診断を受けることが大切です。


ほかにも太陽にあたりすぎないようにする、からだを清潔にする、日常生活のなかで過度なストレスがかからないようにする、などもがんの発症リスクを下げる生活習慣になります。
すべてのリスクをなくすことはできませんが、毎日の生活のなかでひとつずつリスクを減らしていくことはできるはずです。

監修

寺下医学事務所医学博士

寺下謙三

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