バセドウ病
ばせどうびょう

最終編集日:2023/3/22

概要

甲状腺は前頸部にある15~20gの臓器です。甲状腺ホルモンはからだの代謝の維持に不可欠ですが、甲状腺ホルモンの産生過剰による甲状腺機能亢進症のひとつがバセドウ病です。甲状腺ホルモンはサイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3)の2種類があり、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激を受けて産生・分泌されます。

甲状腺ホルモンは「新陳代謝の促進」「交感神経の活性化」「成長や発達の促進」などの働きをしています。そのため、バセドウ病で甲状腺の機能が亢進する(通常よりも高まる)と、さまざまな症状が現れます。バセドウ病の好発年齢は20~30代で、男女比は1:4~5であり、女性に多い疾患です。

原因

バセドウ病は自己免疫疾患のひとつに分類されています。甲状腺には、TSHからの刺激を受け取るTSH受容体があり、バセドウ病ではこれを攻撃する抗体(体内の異物を排除しようと働く免疫システムのひとつ)がつくられ、TSH受容体を刺激し続けるために、甲状腺の機能が亢進し、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまいます。

なぜこのような状態になるのかはまだわかっていませんが、体質(遺伝)、ウイルス感染、妊娠・出産、ストレス・過労などがリスク要因として挙げられています。

バセドウ病
バセドウ病

症状

甲状腺ホルモンが過剰となることにより生じる典型的な症状としては、甲状腺の腫れ、眼球の突出(バセドウ病眼症※)、頻脈の3つがバセドウ病の三徴(特徴的な3つの症状)といわれていますが、すべての患者さんにみられるわけではありません。

代謝亢進状態による典型的な症状は、多汗、暑がり、食欲亢進、体重減少、疲れやすさ、倦怠感、動悸、便通異常(下痢、軟便、便通回数が増える)、手足の震え、精神面での不安定さ、不眠、月経不順などです。

また、脂質異常症、骨粗鬆症、血糖値の上昇などが検査で明らかになることもあります。

症状の現れ方には個人差が大きいことも特徴的です。


※バセドウ病眼症について

バセドウ病に関連した自己免疫機能の異常が原因で、まぶたや眼球の周囲の組織に炎症が起こり、まぶたの腫れ、白目(結膜)の充血、目の痛み、複視(物が二重に見える)、まぶしさ、視力低下、眼球突出などが現れます。目の症状はバセドウ病の約30%に、眼球突出は約10%にみられるとされています。

バセドウ病の検査を行うとともに、MRI検査で眼球周辺の様子をみて診断をつけます。バセドウ病の治療と並行し、ステロイドパルス療法や放射線外照射などで炎症を抑えます。

検査・診断

問診から甲状腺機能の異常が疑われたら、血液検査で甲状腺ホルモンの濃度や、TSH受容体の値などを調べます。また必要に応じ、甲状腺機能の状態をみる甲状腺シンチグラフィ(アイソトープ検査)や、甲状腺の腫れ(腫瘤)の様子をみる超音波(エコー)検査などが行われます。甲状腺腫瘍、無痛性甲状腺炎などとの鑑別が必要です。

治療

抗甲状腺薬を用いた薬物療法、放射性ヨウ素によるアイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)、外科療法(甲状腺亜全摘、全摘)の3つの治療法があります。治療を始めるにあたっては、3つの治療法のメリット・デメリットをそれぞれ聞いたうえで決定しますが、専門医の下で行うことが望ましいです。


●薬物療法

日本ではまず薬物療法が行われることが多いですが、内服開始前に抗甲状腺薬の副作用(白血球減少、肝障害、じんましんなど)について理解します。抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモンの産生を抑制します。甲状腺機能が改善されて、甲状腺ホルモンの値が正常範囲で維持できるようになったら、一般的に3~6カ月は再燃を防ぐために服薬します。内服不要となっても、寛解であって治癒ではないので、定期的な検査が重要となります。


●アイソトープ治療

薬物療法を開始して2年経過しても効果がみられない場合や、副作用(血液の病気である無顆粒球症や発疹、肝障害など)が出現する場合に、アイソトープ治療を考慮します。外来診療の際に放射性ヨウ素カプセルを服用します。放射性ヨウ素は甲状腺に集束して甲状腺を破壊するため、甲状腺ホルモンの産生が抑制され、機能亢進症状は軽減されます。治療後は多くは甲状腺低下症となるため、甲状腺ホルモンの継続服用が必要になります。


●外科療法

薬物療法やアイソトープ治療で効果がない、またはコントロールが不良な場合や、副作用が強い、甲状腺腫瘍を併発、甲状腺の腫れが大きいなどの場合に外科療法が考慮されます。甲状腺全摘を行った場合は甲状腺ホルモンの継続服用が必要になります。


なお、抗甲状腺薬の服薬を無断で中断したり、バセドウ病の治療が不十分なまま放置したりすると、甲状腺クリーゼという深刻な全身病に陥るため、注意が必要です。

セルフケア

療養中

バセドウ病は完治しない病気です。服薬や生活習慣の改善で甲状腺ホルモンの値をコントロールして、寛解状態の維持に努めます。医師の指導に従って、適切な治療を継続することが第一です。

生活習慣の改善として、禁煙し、十分な休養や睡眠をとって、ストレスや過労にならないように注意します。ストレスや過労はバセドウ病の再燃や症状の悪化を招くことがわかっています。甲状腺ホルモンの値が高いときには、激しい運動や過重な労働は避けるようにしましょう。食事に関してはあまり神経質になる必要はありませんが、ヨウ素の過剰摂取は甲状腺に悪影響を及ぼすことがあります。ダイエットや腸内環境を整える目的での海藻類のとりすぎ、ヨウ素を含むうがい薬の使いすぎなどに注意が必要です。


●妊娠・出産について

バセドウ病のコントロールが十分でない場合、流産や早産のリスクが高くなる可能性や、胎児も甲状腺機能亢進症になる可能性があります。妊娠中は甲状腺ホルモンの値のコントロールがむずかしいことも多いため、頻回に受診して適切な治療を続けることが大切です。

また、抗甲状腺薬のチアマゾールには催奇形性があるため、妊娠を計画されている方はプロピルチオウラシルに変更する必要があります。

監修

医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長

富田益臣

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