高カルシウム血症こうかるしうむけっしょう
最終編集日:2023/3/27
概要
成人の体内には約1kgのカルシウムがあり、その99%が骨や歯に存在していますが、残りの約1%が血液や筋肉、神経に「カルシウムイオン」の形で含まれています。微量ながら、血液の凝固を促して出血を止める、心筋(心臓の筋肉)の収縮を促進する、筋肉の興奮を抑制するなどの重要な働きを担っています。
血中のカルシウム濃度は、8.5~10.2mg/dLに保たれています。血中のカルシウム濃度には、副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)やビタミンD、腎臓からのカルシウムの排泄などがかかわっています。とくにPTHは骨や腎臓に働きかけて、骨からカルシウムを血中に放出させたり、腎臓からの排泄を抑制したりして、血中カルシウム濃度が低くならないように働いています。
血中カルシウム濃度が10.3mg/dLを超えた状態を高カルシウム血症と呼んでいます。
原因
高カルシウム血症は副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、サルコイドーシスなどの肉芽腫を形成する病気、ビタミンD過剰症、利尿薬などの薬剤などが原因となって起こります。なかでも副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍によるものが多くみられます。
症状
血中のカルシウム濃度の基準値が、わずかでも超えた瞬間に症状が出るわけではありません。上昇のスピードが早ければ12mg/dLでも症状を呈しますが、時間をかけて徐々に上昇した場合には13~14mg/dLでも無症状のことがあります。
●軽症
疲れやすさ、脱力感、頭痛、集中力低下、食欲不振、吐き気、便秘、口渇などが現れます。さらに軽度な場合は無症状のこともあります。
●重症
記憶障害、傾眠、混迷、不整脈などが起こり、腎機能低下が進行すると高カルシウム血症クリーゼ(クリーゼとは内分泌の異常による危険な状態を指す)に陥ります。
ほかにも、尿路結石、腎不全、骨粗鬆症、徐脈、高血圧などをきたすことがあります。
検査・診断
問診で病歴や服用中の薬の確認を行い、血液検査で血中カルシウム濃度、PTH値、アルブミン濃度、リン濃度、腎機能などを調べます。カルシウムは血中で、おもにアルブミンと結合しているため、アルブミン濃度を、またリンはカルシウムと同じように調節されているため、リン濃度も調べます。骨からのカルシウムの流出の程度をみるために、骨密度を調べることもあります。
原因を特定するため、悪性腫瘍が疑われる場合は腫瘍マーカー値の測定や超音波(エコー)検査、CT、MRIなどを、サルコイドーシスでは胸部X線検査、CT、シンチグラフィなどを行います。
治療
治療の緊急度や方法も高カルシウム血症の程度や症状とその進展の早さによって異なります。進行が早く症状を伴う高カルシウム血症の改善は、生理食塩水の点滴、利尿薬を用いて、カルシウムの排泄を促進します。薬剤性のものが疑われる場合は、原因薬剤を中止します。また原因疾患に応じて、ビスホスホネートやカルシトニンなどの骨吸収抑制薬を用いて骨密度を上昇させる、ビタミンDの活性化を抑える、などの治療も行います。
血中カルシウム濃度が17mg/dL以上の重症例では、血液透析やステロイドの投与が行われることがあります。
並行して、例えば次のような原因疾患の治療を行います。
●原発性副甲状腺機能亢進症
原因は腺腫(80~90%)、過形成(10~15%)、がん(~5%)です。腺腫や症状を伴う症例では、副甲状腺の摘出手術が第一選択です。高カルシウム血症が軽度の場合は、経過観察を行いながら、血中カルシウム濃度の調整や腎機能維持の治療、骨粗鬆症の治療をつづけます。
●悪性腫瘍
肺がん、腎がん、乳がん、膀胱がん、頭頸部がん、多発性骨髄腫などの進行がん、あるいは末期がんのことが多く、それぞれに適した治療が行われます。
なお、高齢者では寝たきりやフレイルで活動量が極端に低下し、骨への刺激が少なくなって骨が溶けやすくなることで、高カルシウム血症をきたす場合があります。また、骨粗鬆症治療として活性型ビタミンD3製剤を服用していることが多いのですが、そのために高カルシウム血症になることもあります。高齢者は症状が現れにくいことから、血中カルシウム濃度を定期的に測定することも必要です。
複数の副甲状腺が腫大している場合は、過形成によるものが多く、家族歴やほかの内分泌腺組織(甲状腺や下垂体、膵臓など)の腫瘍の有無の検査が必要です。
監修
医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣
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