糖尿病性神経障害とうにょうびょうせいしんけいしょうがい
最終編集日:2026/3/31
概要
糖尿病性神経障害は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症と並ぶ、「糖尿病の三大合併症」の一つです。糖尿病の合併症のなかでもっとも頻度が高く、糖尿病患者さんの3~4割にみられるといわれています。
脳や脊髄から手足・内臓などに伸びている、知覚・感覚神経、運動神経、自律神経などの「末梢神経」に障害が起こります。手足の左右両側に対称性に症状がみられるのが特徴です。
糖尿病と診断されたときから糖尿病性神経障害のリスクを常に意識し、予防や早期発見に努めることが大切です。
原因
糖尿病によって血糖値の高い状態(血液中のブドウ糖が多すぎる状態)が続くことが原因です。
血中ブドウ糖が過剰になることで、次のようなことが引き起こされ、神経細胞が障害されると考えられています。
・末梢神経細胞内の、ブドウ糖からできた糖アルコールである「ソルビトール」が過剰になること
・神経細胞にダメージを与える酵素である「プロテインキナーゼC」が過剰に活性化すること
・酸化ストレスが亢進すること
また、神経細胞に栄養を与える血管の細胞にも異常が生じて、神経細胞の変性が進むこともわかっています。このように高血糖状態はさまざまな方向から神経細胞にダメージを与えます。
神経障害の発症や進行の要因には、①血糖コントロール、②糖尿病にかかっている期間、③高血圧症、④脂質異常症、⑤喫煙、⑥肥満、⑦アルコールなどが関与するとされています。
症状
多くの場合、手や足の末梢神経の障害から始まり、徐々に進行していきます。手足の痛覚・触覚・温覚が低下したり、感じなくなったりします。しびれや知覚の異常、痛み(神経痛)、こむら返りなどが現れ、「手足の先がしびれる」「ピリピリ、ジンジンする」「足の裏に何かがくっついている感じがする」「皮や膜を一枚隔てて触っているように感じる」「アリや虫がはっている気がする」「足が冷える・ほてる」など、感じ方は人によってさまざまです。
自律神経が障害されると、便秘や排尿障害、立ちくらみ、胃の働きの低下による消化不良、勃起障害などが現れてきます。そのほか、顔面神経麻痺や筋肉の萎縮など、障害された神経による症状がみられる場合もあります。
さらに重症化すると、痛みや刺激を感じにくくなり、低血糖状態に気づかず意識を失う「無自覚性低血糖」や、胸痛などの自覚症状が乏しい「無症候性心筋梗塞」が起こることもあります。
検査・診断
糖尿病の病歴があり、末梢神経障害を起こすほかの病気(胃切除後のビタミンB12欠乏症、甲状腺機能障害、アミロイドーシス、アルコール性神経障害など)がなければ、糖尿病性神経障害が疑われます。
診断にあたっては以下のような項目から総合的に判断されます。
・糖尿病性神経障害が原因と思われる自覚症状がある
・両側のアキレス腱反射が低下あるいは消失している
・両側の内くるぶしの振動覚低下
検査では、アキレス腱反射検査、皮膚上に電極をつけ微弱な電流を流して反応の様子をみる「神経伝導検査」、指先などに音叉(チューニングフォーク)を当てて振動の伝わり具合をみる「振動覚検査」などで神経や知覚の機能を測定します。また、自律神経の状態をみるために、心電図を用いた「心拍変動検査(R-R間隔検査)」が行われます。
治療
何より重要なのは、血糖コントロールです。あわせて、悪化の要因と考えられる高血圧症や脂質異常症・肥満の改善、禁煙、禁酒も必要です。
そのうえで、薬による治療(薬物療法)が行われ、次のような薬が用いられます。
・神経細胞の保護、再生を図る薬
ブドウ糖をソルビトールにする酵素(アルドース還元酵素)の働きを阻止し、ソルビトールが過剰にならないようにして神経障害の進行を抑える目的で、アルドース還元酵素阻害薬(エパルレスタット)などが用いられます。糖尿病の罹患期間が短く、神経障害の進行が中等度以下の場合に効果があるとされています。
・随伴する症状を軽減する薬
痛みやしびれに対する鎮痛薬や神経障害性疼痛の薬、抗けいれん薬、三環系抗うつ薬や、立ちくらみ、消化不良、便秘、勃起障害などに対する薬が用いられます。
また、足の病変の改善・予防のためのフットケアも重要です。末梢神経障害や血行不良に感染症が重なると、急速に病変が広がり、組織の壊死を起こして足の切断に至ることも少なくありません。靴ずれや爪の異常(巻き爪・陥入爪・深爪)など、小さな傷がきっかけになることも多く、さらに神経障害があると感覚が鈍くなって、傷ができていても気づかないこともあるため、フットケアは定期的に行うことが大切です。
セルフケア
予防
神経障害を進行させないために、必ず血糖コントロールを行います。食事療法、運動療法、薬物療法を継続して、定期的な通院を欠かさないようにします。
足の病変は油断すると急速に進行してしまいます。フットケアの方法を主治医から指導してもらいましょう。見えにくい足の裏や指の間などは鏡を使う、家族に見てもらうなどで見落としのないようにします。
また足に傷をつくらないことも大切です。サイズの合わない靴は避ける、適切な爪の手入れをする(深爪をしない、爪を伸ばしっぱなしにしないなど)、足を清潔に保つ、やけどに気をつけるなどを実践します。糖尿病のある人は、症状がなくても年に1回は足の診察を受けることがすすめられます。
神経障害が現れるのは足だけではありません。顔面神経麻痺や排尿障害、こむら返りなど、これまでにない症状や違和感がみられたら、早めに糖尿病を診てもらっている主治医に相談しましょう。
監修
医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣