糖尿病性神経障害とうにょうびょうせいしんけいしょうがい
最終編集日:2021/12/21
概要
糖尿病性神経障害とは、高血糖によりひきおこされる末梢神経の障害です。糖尿病の代表的な合併症(糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症)のひとつで、手足のしびれや感覚鈍麻、便秘などの症状が現れます。
糖尿病は初期には自覚症状があまり出ない病気ですが、糖尿病性神経障害は比較的早めに症状が現れます。
糖尿病の病状によって発症時期はまちまちですが、糖尿病を放置した場合は、糖尿病の発症から数年後に症状が出ることが多いといわれています。
原因
糖尿病性神経障害は、高血糖に伴う代謝異常、血流障害、末梢神経の再生障害が原因と考えられています。代謝異常による活性酸素の増加や血流障害による低酸素状態、神経栄養因子の産生低下によって神経が障害を受け、きちんと再生されないために症状が進むと考えられています。高血圧や喫煙、過度な飲酒なども糖尿病性神経障害の悪化に関与しているといわれています。
神経障害のもととなる糖尿病は、血液中のブドウ糖を処理しきれなくなり、血液中の血糖値が高くなる病気です。ブドウ糖は脳細胞のおもな栄養素であり、からだのエネルギー源としてとても重要な物質です。
しかし血液中の血糖値が高くなると活性酸素の産生を増やすことになり、血管内の細胞に障害を与えます。血管内皮障害による毛細血管の血流低下が、糖尿病合併症の大きな要因のひとつになっています。
症状
糖尿病性神経障害では、運動神経、感覚神経、自律神経などの全身の末梢神経が障害を受けることでさまざまな症状が出現します。
感覚神経障害として、手足の先から広がるしびれや痛み、感覚のにぶさなどの自覚症状がみられます。また、便秘、排尿障害、起立性低血圧(立ちくらみなど)、勃起不全などの自律神経障害が起こることがあります。また、まれに運動神経障害として、眼球が動かしづらくなる眼球運動障害や、物が二重に見える複視、顔面神経麻痺などが出ることもあります。
糖尿病性神経障害では、自覚する症状以外に感覚神経障害によって、本来自覚するべき痛みなどの症状に気づかないことがあります。痛みに気がつかないため、心筋梗塞や足潰瘍などの発見が遅れ、病状を悪化させてしまうこともあります。
検査・診断
診察では、アキレス腱反射や触覚、振動覚などの低下の有無を診断します。血液検査では糖尿病の進行度合いを、神経伝導速度検査では神経障害の有無を評価します。糖尿病性神経障害では、両側性で足のしびれ、疼痛、異常感覚などの自覚症状の有無が重要視されます。より早期の診断には、神経診察や神経伝導速度検査が重要になります。
治療
糖尿病性神経障害の発症や進行を予防するためには血糖値のコントロールが重要です。血糖値のコントロールには食事療法や運動療法がとくに重要で、喫煙や過度の飲酒なども関係しているため生活習慣の改善が欠かせません。
こうした治療による効果が不十分な場合には、薬による治療が行われます。
末梢神経障害がある場合には、アルドース還元酵素阻害薬が治療薬として保険承認されています。
糖尿病性神経障害の症状の治療は対症療法で行います。しびれや痛みの治療にはメキシレチン、デュロキセチン、プレガバリンを使用します。便秘に対しては緩下剤の使用、起立性低血圧には弾性ストッキング、降圧薬の中止や生活指導など、それぞれの症状にあわせた治療が行われます。物が二重に見える、目の動かしづらさ(動眼神経麻痺など)は、数カ月後に自然回復することが多いといわれており、ビタミン剤投与などで経過観察を行います。
セルフケア
予防
糖尿病性神経障害は、症状のほとんどが自然に改善することはないため、発症させないための予防が重要です。糖尿病性神経障害の予防には、HbA1c の値が6.5%以下であることが推奨されていますが、血糖降下薬の使用時は夜間低血糖の懸念があるため、なかなか目標に到達しないのが現状です。
そのため糖尿病の治療のみではなく、禁煙や節酒、高血圧の治療などもあわせて行うことが非常に重要です。
監修
医療法人青泉会下北沢病院糖尿病センター長
富田益臣
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