変形性股関節症へんけいせいこかんせつしょう
最終編集日:2025/3/5
概要
股関節(ももの付け根)は、ボールとソケットが組み合わさったような形になっています。ボールにあたるのが大腿骨(太ももの骨)の先端の丸い部分(大腿骨頭)、ソケットにあたるのが骨盤側の椀状の臼蓋(きゅうがい)です。大腿骨頭と臼蓋は軟骨で覆われて、曲げたり伸ばしたり、ひねったりなどの動きがスムーズにできるようになっています。この軟骨の組織が変性してすり減ってしまうのが変形性股関節症です。軟骨が十分でなくなることで骨頭と臼蓋が直接接触して炎症を起こし、痛みや可動域制限などの症状が現れます。
この病気の平均発症年齢は40~50歳代で、女性に好発します。原因となる寛骨臼形成不全(後述)が重度の場合には、20歳代で発症することもあります。
原因
明らかな原因がなく、負荷のかけすぎ(過負荷)や加齢に伴って発症する「一次性変形性股関節症」と、小児期のペルテス病など股関節の病気や感染症、先天異常、外傷に起因する「二次性変形性股関節症」に分けられます。
二次性では、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の既往が原因のものが、日本では約80%を占めるとされています。臼蓋が小さく(浅く)、大腿骨頭を十分に包み込んでいない「寛骨臼形成不全」の状態にあります。
最近、変形性股関節症の要因として注目されているのが、「大腿骨寛骨臼インピンジメント」という病態です。大腿骨頭の一部が臼蓋のへりにぶつかり、骨の変形が生じると同時に軟骨を傷め、進行すると変形性股関節症に進展するというものです。大腿骨寛骨臼インピンジメントは遺伝性、あるいは学童期など成長が著しい時期の激しい運動によって生じる、股関節の骨形態の軽度な異常が原因といわれています。
症状
股関節や殿部、鼠径部に痛みが現れます。歩き始め・動き始め、運動のあと、階段の昇降、寝返り時などはとくに痛みます。痛みがあること、組織が硬くなることで可動域が制限され、靴下がはきにくかったり、あぐらがかけなかったりします。左右の足の長さが違う、まっすぐ立っているつもりでも上半身が右か左に傾いているなど、姿勢の異常もみられます。進行すると安静時にも疼痛が起こり、歩行困難になって片足をひきずって歩く跛行(はこう)が現れます。
進行に沿って、4つの病期に分けられ、それぞれに次のような症状の悪化がみられます。
■前期・初期……歩き始めや長く歩いたときにももの付け根や殿部が痛む、靴下がはきにくい、足の爪が切りにくいなど
■進行期……立つ・座るがしにくい、階段の昇り降りがつらい、少しの段差でも手すりがないとつらいなど
■末期……安静時の疼痛、歩行困難、跛行など
股関節や殿部の痛み、歩きづらさなど、変形性股関節症を疑わせる股関節の異常・違和感が現れたら、整形外科を受診します。
検査・診断
問診で症状を確認し、X線検査とCTで寛骨臼形成不全の有無、軟骨や関節裂隙(関節のすきま)の状態、臼蓋と大腿骨頭の適合の程度、骨棘(こつきょく)や骨嚢胞形成の有無などを精査します。
股関節を開いたり閉じたりするときの痛みと可動域について調べる「パトリックテスト(仰向けに寝て曲げたひざを外側に倒す)」を行うこともあります。
必要に応じて、MRIで関節周囲の軟部組織や骨の変化をみます。
特発性大腿骨頭壊死症や腰部脊柱管狭窄症などとの鑑別が必要です。
治療
重症度にあわせて、保存療法か手術かを選択します。
■保存療法
股関節にかかる負担を軽減しながら、筋力の維持に努めます。具体的には、減量、杖の使用、飛ぶ・跳ねる動作を避ける、硬くなった関節のストレッチ、骨盤を支える筋肉を鍛える運動療法などが挙げられます。いずれも病状にあわせて、これらの治療が疼痛を誘発しないように医師や理学療法士などとよく相談して、安全に効果的に行うことが肝要です。
痛みが強い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬(湿布)、ヒアルロン酸の注射などを用います。温熱療法や電気療法で血流を改善し、痛みを和らげます。
■手術
進行期や末期に進行した変形性股関節症では、手術が考慮されます。手術には骨切り術と人工股関節置換術があります。
・骨切り術……若年で関節の障害が重度でない場合に適応されます。大腿骨や寛骨臼の周辺を手術によって変形させて、荷重面積を増やし、残っている軟骨も有効活用する手術です。切ってつないだ骨が安定するまで時間がかかるため、全体重をかけて日常の動作ができるようになるまで、6カ月近くかかるのがデメリットです。また、残った軟骨に新たにすり減りが起こると痛みが現れ、再手術が必要な場合があります。しかし、関節内の組織が温存されるため、治療後は動作に制限がなく、スポーツも可能です。
・人工股関節置換術……通常、50歳以上の進行期・末期に進行したケースに適応されます。股関節を、セラミックやポリエチレンなどでできた人工の股関節に置き換える手術です。術後数日でリハビリテーションを開始、数週間で退院と、日常生活に戻るまでの時間が短いのがメリットです。しかし人工の股関節は脱臼しやすいため、いすの生活にする、洋式トイレにする、できるスポーツが限定されるなど、骨切り術にくらべて術後の生活の制限が多いというデメリットがあります。また、人工股関節には30~40年という耐久年数がありますが、とくに活動性の高い若年者では20年未満ともいわれているためすすめられません。
セルフケア
療養中
生活のなかでは、股関節に負担をかけないようにします。
体重をコントロールして肥満を防ぐ、洋式の生活に切り替える(いす・ベッドの使用、洋式トイレなど)、長時間の歩行・立ち仕事は控える、重い物を持ち上げない、階段は避けてエスカレーター・エレベーターを使用する、段差があるところでは手すりなどにつかまる、杖を上手に利用して負担を軽くする、などが挙げられます。
また、筋力の低下、肥満を予防するために、医師や理学療法士の指導のもとで、適度にからだを動かすようにします。
監修
東馬込しば整形外科 院長
柴 伸昌