「肥満」と「肥満症」の新薬が登場
最終編集日:2024/4/15
「肥満症」の治療薬「セマグルチド」(処方薬)、「肥満」の人向けの内臓脂肪減少薬「オルリスタット」(市販薬)が昨年から今年にかけて相次いで厚生労働省から承認され、使えるようになりました。ただし、ダイエット目的で誰もが使えるものではなく、条件に当てはまる人が医師や薬剤師の指導のもとで使用できる薬です。
●BMIが25以上でも肥満と肥満症は違う
肥満の程度はBMI(Body Mass Index:体格指数)で評価されます。その値は〈体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)〉で算出し、日本ではBMI25 以上を肥満と定義しています。
「肥満症」とは、BMI25以上で、なおかつ肥満に関連する健康障害(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症、狭心症、睡眠時無呼吸症候群など)が1つ以上ある、もしくは内臓脂肪蓄積がある場合の診断名で、治療が必要です。
一方「肥満」とは、BMI25以上ではあるものの、肥満に関連する健康障害などはなく、治療の対象にならない状態です。しかし、放置していると肥満症に進むリスクがあります。
●食欲を抑制し、肥満症を改善するセマグルチド
肥満症の治療薬であるセマグルチド(商品名:ウゴービⓇ)は「GLP-1受容体作動薬」という種類の薬で、もともとは糖尿病治療薬であり、商品名:オゼンピックⓇ、リベルサスⓇとして販売されています。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とは、インスリンの分泌を促進させるホルモンで、小腸から分泌されています。セマグルチドはGLP-1のように働く薬で、食事をして血糖値が高くなったときに膵臓のGLP-1受容体に対して働きかけてインスリンの分泌を促し、血糖値を下げます。
この薬は、血糖値を下げるだけでなく、脳に作用して食欲を抑制したり、胃の働きを抑制したりする働きによって、体重を減少させる効果があると認められたため、厚労省から肥満症治療薬として承認され、保険適用になりました。
ただし、セマグルチドが使える人は肥満症と診断されている人のうち「2型糖尿病、高血圧、脂質異常症のいずれかがある」「食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られていない」「BMI27以上で肥満に関連する健康障害が2つ以上ある、またはBMI35以上」という3つの条件をすべて満たす人に限ります。また処方できる施設や医師が限定されています。
投与方法は、週1回自己注射を行います。おもな副作用は、吐き気や嘔吐、腹痛などで、まれに低血糖や急性膵炎などが起こることがあるので、医師の指示に従って使用しましょう。
●内臓脂肪を減少させて肥満を改善するオルリスタット
肥満の人向けの内臓脂肪減少薬・オルリスタット(商品名:アライⓇ)は、小腸でリパーゼ(脂肪分解酵素)と結合してリパーゼの働きを阻害し、脂肪の分解・吸収を抑制する薬です。吸収されなかった脂肪は便として排出されます。薬の服用とあわせて運動と食事の改善(生活習慣改善)を行うことで内臓脂肪が減少し、腹囲や体重の減少が期待できます。
オルリスタットは薬局で購入できるカプセルタイプの飲み薬ですが、要指導医薬品であるため、薬剤師の対面相談が必須です。「18歳以上」「腹囲(へその高さ)が男性は85㎝以上、女性は90㎝以上」で、さらに「3カ月以上前から食事・運動の改善に取り組んでいる」「定期的に健康診断を受けている」など、いくつかの条件を満たす場合に薬を購入できます。
重い副作用はないものの、下痢、脂っぽい軟便、脂や便が漏れ出て下着を汚すなどの不快症状が起こることがあり、注意が必要です。
●ダイエット目的の使用は危険
海外で販売されているセマグルチドやオルリスタットが通販や個人輸入などで入手できるようです。しかし、偽物である可能性も含め、安全性が保証されていない薬を購入し、自己判断で不適切に使用することは健康上のトラブルを招くリスクがあります。また、糖尿病でも肥満症でもない場合のセマグルチドの使用は安全性も不透明です。ダイエット目的での安易な購入や使用は危険、と心得ましょう。
※2024年4月時点の内容です。
監修
医療法人青泉会 下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣
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