頸部食道がんけいぶしょくどうがん
最終編集日:2024/3/28
概要
のどと胃の入り口をつなぐ食道に発生する食道がんのうち、約5%を占めるのが頸部食道がんです。頸部食道は、おおよそ、のど仏の下辺りから鎖骨の上辺りくらいまでの4~5cmの部分を指します。頸部食道がんのほとんどは、粘膜上皮を覆う「重層扁平上皮」に発症する扁平上皮がんです。
頸部食道は、下咽頭や喉頭につながっていること、声帯と隣りあっていること、周囲にリンパ節が多数分布していること、呼吸や嚥下(えんげ)にかかわる神経や筋肉の複雑な協調運動が行われる部位であることなどが、がんの治療をむずかしくしています。食道がん全体の1年間の発症率は、10万人あたり18人程度、60~70代が約70%を占め、男女の比率は6対1で圧倒的に男性が多くなっています。
原因
喫煙、飲酒がリスク要因として挙げられます。喫煙者では非喫煙者にくらべて約9倍のリスクに、また極端にアルコールに弱い「フラッシャー」と呼ばれる人は、そうでない人よりもリスクが高くなるとされています(いずれも食道がん全体)。
症状
初期には嚥下時の違和感などを覚えることもありますが、一般的に強い自覚症状はあまりありません。そのため、健康診断や人間ドック、ほかの病気の検査(上部消化管内視鏡検査など)で見つかることがほとんどです。病気がある程度進行すると、嗄声(させい:しゃがれ声)、せきやたん、血痰などがみられ、飲み込みにくさなどが起こります。
検査・診断
ほかの部位の食道がんと同じような検査が行われます。食道X線検査、上部消化管内視鏡検査で画像診断を行い、内視鏡下で組織を採取して病理組織検査を行います。正常細胞との区別をつきやすくするために、内視鏡下食道ヨード染色や、内視鏡下狭帯域光観察(NBI:2色の光を用いて病変を観察する)などを用いることもあります。そのほか、造影X線検査、超音波(エコー)内視鏡検査(EUS)、CT検査、PET検査などでリンパ節や他臓器への転移の有無を調べます。
食道の壁は、内側から粘膜(粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板)、粘膜下層、固有筋層、外膜と複数の層からできています。がんの広がり具合と深達度(正常組織にどこまで深く入り込んでいるか)によるステージは、以下のようになっています。
●早期食道がん(T1a):食道壁への深達度が粘膜内にとどまるもの。
●表在食道がん(T1b):粘膜下層までしか及んでいないもの。
※T1aとT1bが早期がんにあたる。
●進行食道がん(T2~T4b):固有筋層以上に深く及んでいるもの。
また、食道がんでは咽頭がん、喉頭がん、胃がんなど、ほかのがんを併発することが多いことから、他部位のがんの有無をしっかり評価する必要があります。
治療
手術と、抗がん剤と放射線を組みあわせた「化学放射線療法」が中心になります。内視鏡治療の適応となる場合は内視鏡治療が優先されます。
手術では頸部食道の切除によって嚥下にかかわる神経や筋肉を傷つけてしまうため、術後に誤嚥のリスクが高くなります。そのため、喉頭も含めて切除する方法が標準治療となっています。通常は喉頭、気管、頸部食道、頸部リンパ節を切除し、腸管を用いて食道に代わる消化管を再建し、首の前に「永久気管孔」を造設します。
この手術によって、声門が切除されるために発声ができなくなる、口や鼻から呼吸できなくなる、気管孔に水が入らないようにするために、例えば、首までの入浴しかできなくなるなど、患者さんのQOL(生活の質)は低下してしまいます。
がんの制御(切除しきる)をおろそかにせず、かつ上記のデメリットを少しでも改善するために、最近はまず化学放射線療法を行うことが増えています。頸部食道がんは放射線療法の効果が見込めるがんであることから、化学放射線療法のみでがんが消失する場合も少なくありません。化学放射線療法によってがんの縮小をみた場合では、嚥下機能や発声機能を残す「喉頭温存術」の適応が検討されます。
喉頭を含めて切除することにより、発声が不能になります。そのため近年では、がんのある頸部食道と周囲のリンパ節を切除します。切除後は空腸(小腸の一部)を切除した食道のところに移植します。術前、あるいは術後に化学放射線療法を併用します。
治療法は、がんの広がり具合、進行度、悪性度、患者さんの全身状態などを総合的に判断して、慎重に選択されます。
セルフケア
予防
頸部食道がんの予防には、ほかの部位の食道がんと同じように、禁煙、節酒に努めることが必要です。また、野菜や果物を多くとると食道がんのリスクが低下することがわかっています。50歳を過ぎたら胃がん検診もかねて、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を1~2年に1度受けることがすすめられます。
監修
鳥居内科クリニック 院長
鳥居明
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