上顎洞がん
じょうがくどうがん

最終編集日:2025/12/20

概要

鼻(鼻腔)を取り囲むように左右につながる8つの空洞を副鼻腔といいます。副鼻腔の役割は、吸気の加温・加湿や異物を吸い込まないようにするフィルター機能と考えられています。さらに、顔面を保護したり、頭蓋骨の重さを軽減したりする働きがあります。副鼻腔のひとつで、頬の骨の裏側にあるのが上顎洞です。この上顎洞に発生する悪性腫瘍が上顎洞がんです。

副鼻腔がんの中では発生率の高いがんですが、がん全体での発生率はかなりまれです。

原因

喫煙による粘膜の慢性炎症や、蓄膿症といわれる慢性副鼻腔炎によって起こる粘膜の慢性炎症により、上顎洞がんの発症リスクが高まると考えられています。

初期には症状が現れにくく、自覚症状が出たときには進行がんとして発見されるケースが多いです。

症状

初期症状には、鼻づまりや鼻出血、うみの混じった鼻水などがあります。副鼻腔炎に似た状態が続くため、慢性副鼻腔炎と診断され治療を受けたり、自覚症状がないままがんが進行することがあります。進行すると、炎症が起こって顔の一部が腫れる、物が二重に見える(複視)などの症状が現れます。

がんの進行する方向によっても症状は異なります。がんが内側に広がると、鼻づまりや頭痛、うみが混じったどろっとした黄色い鼻水が出ます。上方向に進行した場合は眼球突出や複視が、下方向に進行すると上あごの腫れや歯の痛みが生じます。

顔面の前方に進行すると頬の腫れや痛みなどが起こり、後方に広がると開口障害や頭痛が生じます。頸部リンパ節への転移はしばしば生じますが、ほかのがんにくらべて遠隔転移は少ない傾向にあります。

検査・診断

顔の腫れや骨の欠損、押したときの痛み、歯ぐきや上あごの左右の腫れの違いなどを触診します。その後、ファイバースコープという内視鏡を用いて、鼻腔内や上あごに悪性腫瘍があるかどうかを調べます。

また、CT検査やMRI検査を行い、がんの広がりや進行の程度を確認します。

治療

進行度や治療の効果によって、手術療法、化学療法、放射線療法を組みあわせて行います。

もっとも基本的な治療は手術による摘出です。手術では根本的な治療を目指しながら、顔や口内、眼球などの形や機能をなるべく温存する方法が選択されます。

上顎洞の周囲には目や鼻、口など重要な器官が集まっていますが、がんの治療では正常組織を含めてしっかり摘出する必要があるため、眼窩内や視神経への浸潤が明らかな場合、眼球を同時に摘出しなければならないこともあります。手術で欠損が大きくなる場合には、腹直筋や大腿といった部分から皮弁を取る、肋骨の一部を使って頬骨の代わりにするなどの再建手術を組み合わせることがあります。

腫瘍が広範に広がっていた場合は、手術後に化学療法や放射線療法を追加し、がんの完治を目指します。

年齢や体力、周囲への浸潤が大きく切除がむずかしいケースでは、化学療法や放射線療法を組み合わせて根治的な治療を計画することもあります。

顔面の変形や視力障害などの可能性を考慮に入れ、機能面だけでなく審美面にも配慮しながら、治療後のQOL(生活の質)を踏まえて治療法を選択します。

セルフケア

療養中

化学療法や放射線療法が始まると、味覚障害、唾液分泌障害、咽頭粘膜炎など、さまざまな副作用が起こることがあります。また、化学療法による嘔吐や下痢などの回数も増えるため、治療をやり遂げるためのリハビリが必要になります。

おもなリハビリは、スキンケア、口腔ケア、嚥下リハビリなどです。これらのリハビリに精神面のケアも加え、看護師や言語聴覚士、理学療法士などが回復をサポートします。

予防

副鼻腔炎を放置することで発症の原因となる可能性もあることから、予防としては副鼻腔炎の症状に気づいたら早期に医療機関で治療し、慢性化させないことが有効です。さらに喫煙習慣がある人は禁煙が必要です。

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監修

栃木医療センター

小島敬史