ADHD(注意欠如・多動症)えーでぃーえいちでぃー ちゅういけっかん・たどうしょう
最終編集日:2026/3/31
概要
ADHDとは、文部科学省によると、「年齢にそぐわない注意力(の欠如)、および/または多動性、衝動性を特徴とする行動の障害で、学業や社会生活に支障をきたすもの」といった定義がされています。自閉スペクトラム症(ASD)、限局性学習症(SLD)とともに「発達障害」のひとつに分類されます。
通常、12歳くらいまでに症状が現れ、多くは大人になっても継続します。国内での有病率(ある時点で、集団のなかで病気をもっている人の割合)は明らかな数字が出ていませんが、米国の統計(DSM-5)では小児期5%、成人期2.5%で男女比はほぼ同じ頻度とされています。
近年、成人してからADHDと診断されるケースが増えています。ADHDと診断された人の半数以上は、20歳を過ぎてからの診断だったという報告もあります。
忘れ物や失くし物、仕事上のミスはだれにでも起こり得ますが、それに加えて、スケジュール管理ができない、同時に2つ以上のことに対処できないなどが頻回に起こり、仕事や社会生活に支障をきたす場合は、「その人の性格」なのではなく、ADHDの可能性があります。
原因
ドパミンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物質の機能不全、脳の一定の部位(前頭前皮質など)の機能障害などが原因として考えられており、これらの異常には遺伝的要因の関与が強いといわれます。この遺伝的要因と環境的要因が絡みあって発症するとされています。また、妊娠中の喫煙・飲酒、鉛や特定の化学物質への曝露など、母体の要因の関与が疑われています。
しかし、養育者の育て方やしつけ、成育環境、患者さん本人の精神状態が原因でないことは明らかになっています。
症状
不注意(注意欠如)と、多動性、衝動性の症状がみられます。
●注意
失くし物や落とし物、ちょっとしたミスが多い、集中力が続かない、気が散りやすい、勉強や仕事を順序だてて行うことがむずかしい、最後までやり遂げられない、言われたことや約束を忘れるなど
●多動性
じっとしていられない、着席時にももじもじと動く、静かにしていなければならないときに席を立ったり歩き回ったりする、おしゃべりが止まらない、集団での遊びや活動におとなしく参加できないなど
●衝動性
順番を待てない、相手の話が終わらないうちに話し出す、質問が終わっていないのに答える、相手の行動をさえぎるなど
おもに不注意がみられる「不注意型」、多動性・衝動性が強い「多動・衝動型」、どちらもみられる「混合型」に分けることもあります。
小児では多動性や衝動性が強く現れ、成人では、不注意の症状が強く出ることが多いようです。
ADHDでは脳の「ワーキングメモリー」と呼ばれる働きが低下していると考えられます。ワーキングメモリーは、複数の情報を頭のなかに維持しながら、整理したり片づけたりする処理能力を指します。そのため、同時に複数のことを推し進めることができない、情報整理ができない、計画を立てて遂行できない、などが起きてきます。
検査・診断
問診でふだんの生活の様子、困っていることなどをくわしく聞き取ります。5~18歳のお子さんについては、親や教師が回答する「ADHD-RS」という検査を行うこともあります。質問に答える形式のもので、診断や症状の強さの判定に用います。
不注意、多動性、衝動性を示す症状が以下に該当する場合にADHDと診断されます。
・12歳になる前からあった
・異なる2つ以上の環境(学校と家庭、職場と家庭など)でみられる
・6カ月以上続いている
・ほかの精神疾患(統合失調症など)がない
ほかの発達障害(ASD、SLD)やてんかん、甲状腺機能障害、脳腫瘍などとの鑑別、またほかの発達障害や自閉スペクトラム症などの合併の有無を診断することが重要です。鑑別診断のために、頭部MRI検査や血液検査、IQの測定などが行われることもあります。
治療
ADHDの根本的な治療法はまだありません。しかし生活のなかで困っていることを軽減して、症状が現れにくくすることは可能です。それにはまず環境の調整を行います。
●環境の調整
患者本人が困っていることに対処できるように、環境を工夫します。
【小児の場合】
・忘れ物・失くし物
学校の準備を養育者が一緒に行う、物を決まった場所にしまう、スケジュールをメモにして目につきやすい所に置くなど
・多動・集中できない
教室で教師の目が届きやすい前方の席にする、机の上には必要なものだけ置く、気が散りやすいゲームや本などを視界に入れないようにするなど
養育者はできないことを叱るのではなく、できていることをほめる、などを心がけます。
【成人の場合】
・忘れ物・失くし物
カギやスマートフォン、財布などは決められた場所に置く、その日に必要なものをリストアップして外出前にチェックするなど
・仕事上のミス
スケジュールやタスク(やるべき仕事・作業)を必ずメモやリストにする、スマートフォンのカレンダーアプリやアラーム機能、リマインダー機能を上手に活用する、タスクに優先順位を付ける、パーテーションなどで集中できる環境にする、ダブルチェックを習慣づける(家族や同僚に協力してもらう)など
●薬物療法(薬による治療)
環境の整理を行っても症状が強く、学校生活や社会生活に支障をきたすような場合には、薬物療法が検討されます。薬はおもに「中枢神経刺激薬」と「非中枢神経刺激薬」の2種類があります。中枢神経刺激薬はドパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を活性化します。効き目が速く現れる反面、副作用(睡眠障害、食欲不振など)が出やすいのが特徴です。非中枢神経刺激薬はノルアドレナリンの量を増やし、脳の前頭前野という部分の機能を改善させます。効き目は穏やかで副作用が出にくいですが、効果が出るまで時間がかかります。薬は症状や年齢、ライフスタイルなどにあわせて選択されます。
●心理社会的療法
ソーシャルスキルトレーニングやマインドフルネスなどの心理社会的療法を行うこともあります。
セルフケア
療養中
ADHDかもしれないと思ったら、精神科や心療内科、メンタルクリニックを受診します。近年は「ADHD外来」「成人期発達障害外来」など、ADHDに特化した診療科も増えてきています。子どもの場合は小児科でいいでしょう。
成人の場合、自分がADHDであることを公表するかどうかの判断はむずかしく、人によって状況は異なります。主治医や家族、心理療法士などの専門家とよく検討して決定しましょう。
ADHDの患者さんは失敗が続くことで疎外感や自己否定感を抱いています。家族や同僚など周りの人はADHDについて正しく理解し、本人の特性として受け入れて、協力体制をとるようにします。
子どもがADHDの場合は、ADHDの子どもへのかかわり方を学ぶ「ペアレント・トレーニング」を受けるとよいでしょう。
監修
赤坂溜池クリニック 院長
降矢英成