脊髄腫瘍
せきずいしゅよう

最終編集日:2023/9/21

概要

脊髄は、脳から連続する中枢神経であり、背骨のなかの空間(脊柱管)に保護される形で存在しています。脊髄は第1~第2腰椎まで達していて、脊髄からは脊髄神経が出ており、脊髄の下端からの脊髄神経は馬尾神経といわれています。脊髄は内側から軟膜、くも膜、硬膜の3つの膜に覆われています。

脊髄腫瘍とは、脊髄および脊髄からの神経(脊髄神経)、脊柱管内のそのほかの組織(硬膜など)から発生する腫瘍の総称です。発生場所によって分類され、硬膜の外側にできる硬膜外腫瘍、硬膜の内側で脊髄の外にできる硬膜内髄外腫瘍、脊髄に生じる髄内腫瘍に分けられます。腫瘍により好発部位に差はみられますが、全体としては胸椎がもっとも多く、頸椎、腰椎の順になります。

脊髄腫瘍は、中枢神経系(脳と脊髄)に発生する腫瘍の約15%を占め、発症頻度は年間10万人あたり約2.5人とされています。腫瘍の種類によって好発年齢に差はありますが、全体としては50~60代に多く発症します。

腫瘍の種類はさまざまですが、発生部位によって好発しやすいものがあり、硬膜外腫瘍では、転移性腫瘍(肺・乳・前立腺がんなど)がもっとも多く、硬膜内髄外腫瘍では、大部分が神経鞘腫か髄膜腫であり、良性の腫瘍がほとんどです。脊髄のなかに発症する髄内腫瘍は、頻度は少ないものの、治療に難渋するものが少なくありません。

原因

転移性腫瘍以外の腫瘍に関しては、原因はまだわかっていませんが、遺伝子に異常が生じて腫瘍が発生することもまれながらあり、レックリングハウゼン病など、生まれつき脊髄腫瘍を発症しやすい人もいます。

症状

腫瘍に脊髄や脊髄神経が圧迫されることで、症状が現れます。腫瘍の発生部位によって異なりますが、生じた部位に痛みを感じたり、手や足のしびれ、筋力低下・萎縮、麻痺、けいれん、歩行困難、排尿・排便障害などが起こります。初期には限局的だった症状も、時間の経過とともに拡大し、増強する傾向があります。また、腫瘍が良性の場合は、数カ月から数年かけてゆっくり進行しますが、悪性の場合は急速に進行し、数日で歩行困難や呼吸障害が現れることもあります。

脊髄腫瘍ではなく、頻度が多い脊椎自身の脊椎変性疾患などでは、安静に仰臥すると痛みが和らぎますが、脊髄腫瘍の疼痛は夜間の安静時でもつづく傾向があります。

無症状であるにもかかわらず、ほかの病気のためのMRI・CT検査で偶然見つかる場合も最近は増えています。

検査・診断

問診と、脊椎X線検査、脊椎脊髄MRI検査、CT検査などで診断をつけます。転移性腫瘍を疑う場合には、骨シンチグラフィなども行われます。腫瘍の種類によって、良性・悪性、治療法、再発率、予後などが異なるため、慎重に精査されます。鑑別診断が必要な疾患としては脊髄炎、多発性硬化症、脳疾患などがあります。

確実に診断するためには、病変部を採取しての病理検査が必要とされます。病理検査の結果から治療方針を決定するうえで有益な情報が得られます。

治療

良性腫瘍で大きな症状を呈していない場合は、経過観察することがしばしば行われます。脊髄腫瘍の種類に応じて治療が必要と判断される場合には、手術や化学療法、放射線療法などが適宜選択されます。外科的治療では腫瘍部分の摘出術を行いますが、全摘出できるかどうかは腫瘍の性格に依存します。手術の際は可能な限り神経を温存するため、術中の神経生理学的モニタリングを行い、神経の損傷を確認しながら進めます。どの程度まで積極的な治療を行うかは、年齢的なことも考慮して慎重に決定されます。

摘出困難な腫瘍(神経膠腫など)では、放射線療法が有効なことがありますが、増大が抑制できないこともあり、治療後の長期の晩期障害が懸念されることがあります。

腫瘍の発生部位による分類で、好発しやすい腫瘍、腫瘍の性質、治療法に特徴があります。


●硬膜外腫瘍……脊髄腫瘍全体の約15%を占め、その大部分は転移性腫瘍です。原発性腫瘍では、神経鞘腫、血管腫、脂肪腫、血管脂肪腫などがあります。転移性腫瘍では、がんの原発巣の治療・コントロールが必要になります。症状が強い場合には手術を行うこともあります。原発巣のコントロールが十分でなく、長期生存が見込めない場合には、放射線照射を行い、疼痛の緩和ケアが行われます。


●硬膜内髄外腫瘍……腫瘍は硬膜下に存在し、脊髄を外から圧迫して脊髄や神経障害をひきおこします。脊髄腫瘍の全体の約70%を占め、腫瘍の大部分が神経鞘腫、または髄膜腫などの良性の腫瘍で、正常組織との境界がはっきりしているため、タイミングを図って手術を行えば、完全に摘出することが可能です。


●髄内腫瘍……脊髄腫瘍全体の5~15%ですが、その大部分(70~85%)は神経膠腫(成人に多い上衣腫と小児に多い星細胞腫)です。そのほか、血管芽細胞腫、海綿状血管腫などがあります。星細胞腫は、脊髄のなかに入り込んでいることが多いため、一部を除いて全摘出は困難であり、その予後はほかの腫瘍と異なります。再発のリスクが高いため、術後に放射線療法と化学療法を組みあわせた治療が考慮されます。

セルフケア

予防

手足のしびれや痛み、後頸(首)部痛、背中の痛みや腰痛などがあり、からだを休めてもなかなか改善しなかったり、増強してくるような場合は、軽く考えず、神経内科、脳神経外科、整形外科などを、早めに受診することが必要です。

また、がんの治療を受けている人や、受けたことがある人も早めに受診することが必要です。

監修

昭和大学 医学部脳神経外科 名誉教授

藤本司

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