胸膜腫瘍きょうまくしゅよう
最終編集日:2022/3/17
概要
胸膜腫瘍とは、胸のなかにある胸膜に腫瘍ができる疾患です。胸膜には肺を覆っている臓側胸膜と、胸壁の内側にある壁側胸膜があります。腫瘍には原発性(胸膜から発生する場合)と転移性(ほかに腫瘍があり胸膜に転移する場合)があります。
原発性の胸膜腫瘍は、線維組織から発生するほぼ良性の孤立性線維性腫瘍と、胸膜中皮細胞から発生する悪性の胸膜中皮腫に分かれます。胸膜中皮腫には良性はなく、すべて悪性胸膜中皮腫になります。
転移性の胸膜腫瘍の場合、ほとんどは肺がんからの転移です。まれに、乳がん、胃がんなどほかの臓器から転移したがんの場合もあります。
息切れと胸部の鈍い痛みがおもな症状で、治療は病状の進行度などにより異なります。
原因
胸膜中脾腫のうち、悪性胸膜中皮腫は胸膜の内面(臓側胸膜)にある中皮から発生する腫瘍で、アスベスト(石綿)を長期間または大量に体内に取り込むことが原因の疾患として知られています。アスベストに関係する仕事に従事してから20~40年以上経過した後に発症することが多く、そのメカニズムははっきりとはわかっていません。現在、アスベストはあらゆる業界で全面的に使用禁止になっています。
孤立性線維性腫瘍の発症の原因ははっきりとはわかっていません。
症状
悪性胸膜中皮腫は早期には症状はありません。腫瘍が大きくなってくると胸や背中に鈍い痛みがあり、やがて肺の動きが制限され、息苦しさを感じるようになります。胸水がたまったり、動いたときに呼吸困難を自覚するようになります。
進行すると、発熱や倦怠感、体重減少などの症状も現れます。
孤立性線維性腫瘍は、腫瘍の大きさにより、胸痛などが現れることがあります。“ばち指”と呼ばれる爪や指の変形や、関節炎、低血糖などがまれに報告されています。
ほかの臓器のがんから転移した胸膜腫瘍の場合には、胸痛を感じることが多く、息切れや胸の圧迫感が症状として現れることもあります。
検査・診断
胸部X線検査や胸部CT検査により診断します。胸水が確認でき、胸膜が異常に厚みを増している場合は、悪性胸膜中皮腫を疑います。MRI検査によって腫瘍と他臓器との境界、PET検査で悪性腫瘍かどうかや転移の有無などを確認します。
確定診断をするためには、胸水あるいは胸膜の一部を採取して病理検査を行います。ただし胸膜の腫瘍細胞は、からだの外側から針を刺して採取した組織検査では診断できないことがあり、その場合は胸腔鏡検査を行い、外科的に組織検体採取を行うこともあります。
ほかの臓器のがんから転移した腫瘍であることが明らかな場合は、病理検査を行わないこともあります。
治療
治療法は病状や進行度によって異なります。
悪性胸膜中皮腫の場合は、現在のところ完治し得る治療法はありません。手術ができるケースでは、腫瘍を取り除く治療法がとられ、腫瘍の大きさや全身状態により選択します。(胸膜肺全摘術:腫瘍のある胸膜、肺、横隔膜、心膜の一部をまとめて切除する方法)
孤立性線維性腫瘍の場合は良性、悪性にかかわらず、腫瘍をすべて手術により取り除きます。良性とみられる場合は胸部画像による経過観察のみで、増大すれば手術を考慮することもあります。悪性の場合は、術後に放射線療法や化学療法を行うこともあります。
ほかの臓器のがんからの転移である場合は、化学療法が治療の中心になります。胸水がある場合には、針を刺して水を抜き、癒着術を行うこともあります。
セルフケア
予防
悪性胸膜中皮腫の原因になるアスベストは、石綿といわれるように綿状の形態をした鉱物で、古くから建材、摩擦材、断熱材などに広く使用されてきました。しかし、肺疾患などの健康被害が問題となり、日本では2006年に全面使用禁止になりました。
アスベストによって起こる悪性胸膜中皮腫や肺がんなどの疾患は治療がむずかしいため、早期発見が非常に重要です。以前に石綿に関連する仕事に従事していた人は、アスベストを吸った期間や量を専門家に相談し、症状がなくても定期的に健康診断を受けることが大切です。また、アスベストに関連する疾患のうち、悪性胸膜中皮腫や肺がんは喫煙することで発症のリスクが急激に高まります。必ず禁煙するようにしましょう。
監修
千葉大学病院 呼吸器内科 特任教授
巽浩一郎
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