がん性胸膜炎
がんせいきょうまくえん

最終編集日:2023/7/4

概要

肺を収めている空間を「胸腔」と呼び、胸腔の壁は「胸膜」に覆われています。胸膜は壁側胸膜(胸腔の内側と横隔膜の表面を覆う)と、臓側胸膜(肺の表面を覆う)の2枚に分けられ、通常この2枚はあわさって表と裏になっています。あわさった膜の間の「胸膜腔」というわずかな空間は「胸水」という液体(リンパ液)で満たされ、呼吸で肺が伸縮する際の摩擦を減らす潤滑油のような働きをしています。

胸膜炎は、胸膜腔に炎症が起きた状態を指します。肺炎や膠原病など、さまざまな原因で起こりますが、がん性胸膜炎は、悪性腫瘍が進行して、胸腔内にがん細胞が播種(はしゅ:まき散ら)され、胸膜に転移したことで起こります。胸膜腔に炎症が起こると、肺からリンパ液がにじみ出てくるため、胸膜腔に水がたまる胸水がみられます。

原因

肺がん、乳がん、悪性リンパ腫が、がん性胸膜炎のもっとも頻度の高い原因で、この3つで約50%を占めるといわれています。

症状

呼吸困難がおもな症状です。貯留した胸水が肺を圧迫するために呼吸機能が低下して起こります。胸痛を伴うこともあります。

検査・診断

原因となる悪性腫瘍があり、その進行度から胸膜炎が疑われたら、胸部X線検査、またはCT検査で胸水の有無を確認します。胸水が貯留していれば、胸腔穿刺(胸腔に針を刺す)を行い、胸水を採取して胸水細胞診を行い、胸水にがん細胞があるかどうかを調べます。

全身状態によっては、胸水細胞診を行わず、画像診断のみで診断をつけることもあります。

治療

胸水の貯留量が多い場合は、胸腔に針やドレーン(チューブ)を挿入して胸水を排出させる「胸腔ドレナージ」という処置を行います。胸水が排出されると、肺の圧迫がとれ、呼吸がしやすくなります。また、基本的には、がん治療が並行して継続されます。

がん治療を行っても胸水が増える場合には、胸膜腔を薬剤で癒着させて胸水が貯留するスペースをなくす「胸膜癒着術」が行われることもあります。がん性胸膜炎の場合、にじみ出た胸水はたんばく質、アルブミン濃度が高いのが特徴です。からだの栄養物質のたんばく質やアルブミンが失われることになります。患者さんは体力が低下しているため、食事が進まず、エネルギー補充が十分にできません。その結果、悪液質(カヘキシア)が悪化します。この場合、胸膜癒着術がもっとも有効です。少しでもたんばく質の補充が必要ですが、あくまでも可能な範囲で行われます。


●治療の考え方

残念ながら転移による胸膜炎を起こすという状態は、すでにがんがかなり進行した段階で、予後はあまりよくありません。原因であるがんを改善できない以上、胸膜炎を完治させることはむずかしいといってよいでしょう。そのため、患者さんに負担が大きい治療法はあまり選択されず、呼吸困難などの症状をできるだけ緩和する目的で、治療が行われます。

セルフケア

療養中



監修

千葉大学病院 呼吸器内科特任教授

巽浩一郎

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