RSウイルス感染症 ~ワクチンも登場
最終編集日:2024/7/8
RSウイルス感染症の報告数が、今年は第13週(3月末頃)以降、過去5年間で最も多くなっています。今後も流行は続くとみられ、乳幼児や高齢者、基礎疾患がある人などは注意が必要です。
●RSウイルス感染症は呼吸器の感染症
RSウイルス感染症は、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus、呼吸器合胞体ウイルス)に感染して起こる呼吸器の感染症です。このウイルスは感染細胞同士が融合して1つになるのが特徴で、これにより気道の粘膜細胞が損傷して炎症が起こります。炎症はまず上気道(鼻腔や咽頭)から始まり、下気道(細気管支や肺)へと広がっていきます。
感染経路は主に「飛沫感染」と「接触感染」の2つですが、感染力が強いため、生後1歳半までに半数以上の子ども、2歳までにほぼ100%の子どもが感染するとされ、その後一生のうちに何度も感染を繰り返します。
●重症化しやすいのは乳幼児、高齢者、基礎疾患のある人
RSウイルスに感染すると、2〜8日(典型的には4〜6日)の潜伏期間を経て、くしゃみ、鼻水、軽いせき、発熱などのかぜのような症状が数日間続きます。多くはこのような軽症で済み、自然に治癒に向かいます。しかし、せきがひどくなる、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音を伴うようになる(喘鳴:ぜんめい)、呼吸困難など、症状が重くなる場合があり、さらに重症化して細気管支炎や肺炎へ進むこともあります。
乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50〜90%はRSウイルス感染症によって起こるといわれていて、乳幼児にとっては重大な感染症です。初回感染時に重症化しやすく、初感染した乳幼児のうち約7割は軽症ですが、約3割は症状が悪化するといわれ、特に生後6カ月以内での感染は要注意です。月齢の低い乳幼児ほど気道が狭く、免疫システムも十分に発達していないため重症化しやすいといえます。無呼吸、急性脳症などの合併症や、気管支ぜんそくが後遺症として生じる場合もあります。
一方、大人の場合はRSウイルスに感染してもほとんどが軽症で済みますが、高齢者、気管支ぜんそく・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・心疾患などの基礎疾患がある人、免疫機能が低下している人たちは重症化しやすいので注意が必要です。感染した子どもをケアしていた保護者や医療関係者が大量のウイルスにさらされて感染し、重症化するケースもあります。
●高齢者や妊婦向けのワクチンが登場
現在、RSウイルス感染症に対する特効薬はなく、治療は対症療法で症状の緩和をめざします、例えば、発熱に対する解熱薬、呼吸困難があれば酸素投与、脱水予防のための点滴などです。
子どもに接種するワクチンはまだありませんが、重症化を予防するための注射(パリビズマブ)は使われています。これはRSウイルスに対する「モノクローナル抗体」を体内に入れ、ウイルスの増殖を防ぐものです。ワクチンのように体内で抗体が作られるようにするものではないため、1カ月に1回の接種が必要であり、接種対象も呼吸器や心臓の病気を持っている子どもや早産児などに限定されています。健康な子どもでも重症化して入院することが多いことから、すべての子どもに対する予防手段の開発が待ち望まれています。
そのようななか、今年(2024年5月)になって、妊婦さんに接種するワクチン(RSウイルス母子免疫ワクチン)が登場しました。胎盤を通じて母体から抗体を胎児に移行させることで、新生児や乳児のRSウイルス感染や重症化を予防するワクチンです。任意接種のワクチンで費用は全額自己負担、35,000円前後が目安です。
同じく今年から、60歳以上を対象とするRSウイルスワクチンも接種できるようになりました。費用は全額自己負担、25,000円前後が目安です。
※2024年6月20日時点の内容です。
監修
川崎医科大学 小児科学 特任教授
中野貴司
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