皮膚がん
ひふがん

最終編集日:2024/3/25

概要

皮膚がんは皮膚にできる悪性腫瘍の総称です。皮膚は表面から、表皮(角質層、顆粒層、有棘〈ゆうきょく〉層、基底層)、真皮、皮下組織からなっています。表皮は約0.2㎜の厚さで、基底層にある基底細胞が細胞分裂して有棘層から顆粒層へ、最終的に角質層と表面に向かって移動します。これが「ターンオーバー」と呼ばれる現象です。基底層にはメラニン色素を産生するメラノサイトが、真皮には汗腺(アポクリン腺、エクリン腺)や毛包などがあります。皮膚がんは発生する場所によって、有棘細胞がん、基底細胞がん、メルケル細胞がん(基底層にあるメルケル細胞ががん化)、悪性黒色腫(メラノーマ。メラノサイトに由来する)、乳房外パジェット病(アポクリン腺の多い部位に発生する)などに分けられます。それぞれに特徴をもち、治療方針も異なります。皮膚がんは年単位で徐々に進行するものも急速に進むものもあります。表皮に発生するがんでは、がん細胞が表皮内にとどまっていれば、多くは転移することはありません。

皮膚がんの年齢調整罹患率は、人口10万人あたり30人弱と、日本人にはまれながんです。男女差はほぼありませんが、皮膚がんは高齢者に比較的多くみられます。

原因

皮膚がさまざまな刺激を継続して受けることで、DNAが損傷され、うまく修復できずにがんが発生します。原因として、紫外線、ウイルス感染、やけどやけがなどの外傷、放射線治療の既往などが挙げられます。とくに日光を浴びることによる紫外線の影響は大きく、多くの皮膚がんが顔や手足などに好発します。また、メルケル細胞がんは、ポリオーマウイルスとの関連が、上皮内がんの一種であるボーエン病やケーラー紅色肥厚症は、ヒトパピローマウイルスとの関連が指摘されています。

症状

●基底細胞がん

初めは小さな盛り上がった黒い点が現れることが多いです。紫外線の関与が強く疑われ、多くは鼻や上唇、額、まぶたの周辺、頬など、日光にあたりやすい場所に発生します。黒い点は数を増やし、円形になって広がり、進行すると中央部にびらん(ただれた状態)や潰瘍(えぐれた状態)を形成します。そのほか、肌色や薄い赤色の硬い発疹や細い血管などがみられることもあります。皮膚がんのなかでもっとも頻度が高く、転移することはほとんどありませんが、皮膚の奥深くに侵襲していきます。


●有棘細胞がん

有棘細胞がんは進行したものですが、早期のものは前がん病変である日光角化症や上皮内がんであるボーエン病と呼びます。日光角化症では、赤みのあるしみ、ざらざらした境界がわかりにくいしみ、出血とかさぶたをくり返すしみなど、さまざまなしみが現れます。ボーエン病ではいつまでも治らない乾いた湿疹のような病変が現れますが、男性の亀頭部にできたものは、ケーラー紅色肥厚症と呼びます。有棘細胞がんでは赤いできものが大きくなり、カリフラワーのように盛り上がります。皮膚がただれ(潰瘍化し)、血が出ることもあります。細菌が感染すると、においを伴うようになります。


●乳房外パジェット病

外陰部や肛門、わきの下(腋窩)に、紅斑や皮膚の色が抜けた白斑が現れ、皮膚のびらんやかゆみを伴うこともあります。


●メルケル細胞がん

顔や頭部に、赤い盛り上がった塊ができます。


●悪性黒色腫(メラノーマ)

不規則な形で色むらのある褐色、黒色の色素斑や腫瘤が現れます。ほくろと紛らわしいこともあります。爪のなかに黒い線が走ることで見つかる場合もあります。診断の目安として用いられる「ABCDEルール」は、自覚症状の見極めにも有用です。A=非対称な形(Asymmetry)、B=境界がはっきりしない、縁の色がにじんでいる(Border)、C=色調のむら(Color)、D=長径が6㎜以上(Diameter)、E=大きさ、色、形、症状が変化する(Evolution)。初期病変が転移することは少ないですが、進行したものは転移しやすいのも特徴です。メラノサイトがある部位に発生するため、皮膚だけでなく、粘膜(副鼻腔、食道や直腸などの消化管、尿路など)や眼部にも発生します。

悪性黒色腫(メラノーマ)
悪性黒色腫(メラノーマ)

検査・診断

視診で病変部を観察した後、ダーモスコピー検査(ダーモスコープという光源の付いた拡大鏡で見る)でさらにくわしく調べます。リンパ節などへの転移が考えられる場合には、超音波(エコー)検査、CTやMRI、PET-CTなどの画像検査を行います。確定診断のために、組織の一部をとって病理検査を行います。悪性黒色腫、有棘細胞がん、メルケル細胞がん、乳房外パジェット病では、リンパ節転移の有無の診断がつきにくい場合には、最初にリンパ節転移を起こす「センチネルリンパ節」の生検を行います。センチネルリンパ節に転移がみられれば、かつては手術の際にリンパ節郭清を行いましたが、近年では抗がん剤で治療をすることが多くなりました。また悪性黒色腫では、治療薬剤の選択のために、遺伝子検査(BRAF遺伝子変異の有無の確認)が行われます。

治療

皮膚がんの治療は、手術による切除が基本となります。多くは再発リスクを減らすために、病巣部から十分距離をとって大きめに切除します。切除部位が大きい場合には、皮弁や植皮などで皮膚の再建を行います。がんをとり切れない場合や、再発あるいはリンパ節や他臓器への転移のリスクが高い場合には、放射線治療や抗がん剤治療を併用します。


●切除範囲が広くなる可能性のある有棘細胞がんでは、術前の放射線治療や抗がん剤治療で病巣部を縮小させてから切除する場合もあります。


●メルケル細胞がんでは、分子標的薬も用いられます。


●乳房外パジェット病では、切除によって排尿機能や排泄機能に障害が起こることがあります。近年では可能な場合には、内視鏡治療などで機能温存手術を行う場合もあります。


●悪性黒色腫の進行例で手術ができない場合は、BRAF遺伝子変異の有無にあわせて、さまざまな抗がん剤を組みあわせた治療が行われます。

セルフケア

予防

皮膚がんは目で見える場所にできることから、早期発見が可能です。しかし一方で、初期の症状が湿疹やしみなど、日常よく遭遇する症状に似ているため、見逃されることも多いようです。1カ月経っても治らない、あるいは薬の効果がみられない皮膚病変があったら、皮膚科を受診しましょう。また、日頃から紫外線対策を行って、将来的な皮膚がんのリスクを減らすことも重要です。

監修

関東中央病院 皮膚科部長

鑑慎司

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