更年期の手指の不調「メノポハンド」とは

最終編集日:2025/4/14

「メノポハンド」とは、更年期(閉経前後の45~55歳くらい)の女性に多く見られる手指の痛みやこわばり、しびれなどの症状のことを指します。2022年、日本手外科学会が命名した造語で、「更年期の手」を意味する英語「menopausal hand(メノポーザルハンド)」を略したものです。


●エストロゲンの減少が原因

メノポハンドの主な原因は、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの減少です。卵巣から分泌されるエストロゲンには、生殖器官の発育や維持、骨量の維持や血中のコレステロールのバランスを整えるなどの働きのほか、関節の「滑膜(かつまく)」を保護する働きもあります。滑膜とは関節や腱(骨と筋肉をつなぐ組織)の周りを覆っている組織で、関節の動きをスムーズにする潤滑油の役割を担っています。ところが更年期になると、卵巣機能が低下してエストロゲンが急激に減少します。すると滑膜への保護作用も低下し、滑膜が腫れることにより骨(軟骨)同士がぶつかって手指に痛みやしびれが生じやすくなります。


●メノポハンドが進行すると手指の病気にも

メノポハンドを単なる加齢の現象として放置すると、3~10年後に手指の病気を発症する可能性があります。代表的な病気としては、指を曲げるときに必要な腱や腱鞘に炎症が起こって腱鞘炎が生じ、指の曲げ伸ばし時に引っ掛かる「ばね指」、末梢神経障害によって小指以外の指がしびれる「手根管症候群」、指の関節が変形する「変形性関節症」などがあげられます。このような病気へと進行させないためにも、手指の不調や異変を少しでも感じたら、早めに整形外科を受診するようにしましょう。


●メノポハンドの治療

メノポハンドの治療法としては、女性ホルモンを補充して症状を改善する「ホルモン補充療法」や、エストロゲンに似た働きをする大豆由来の成分である「エクオール」のサプリ摂取が有効とされています。進行して手指の病気になれば、装具やテーピングをしたり、炎症や痛みが強い場合はステロイド注射で症状を抑えたり、症状によっては手術を行う場合もあります。


●メノポハンドのセルフケア

入浴やホットタオルで手を温めると、血行改善により手指の痛みの軽減効果が期待できます。また、全身運動で血液循環を促すほか、片方の手でもう一方の手指を反らして伸ばすストレッチもおすすめです。


●更年期の女性以外も要注意

メノポハンドは更年期の女性に多い症状ですが、60歳前後の男性でも発症する場合があります。また、産後の授乳期もエストロゲンが急激に減少するため、手指の痛みなどの不調を訴える人も少なくありません。これは、妊娠中に多く分泌されたエストロゲンが元の分泌量に戻るためで、やがてエストロゲンの減少が落ち着くと症状も治まります。ただし、産後に手指の不調があった人は、更年期にメノポハンドになる可能性があるので、エクオールで予防したり、セルフケアをしたりすることが大切です。


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監修

産業医科大学 整形外科学 教授

酒井昭典