インフルエンザ脳症いんふるえんざのうしょう
最終編集日:2022/1/11
概要
インフルエンザ脳症とは、インフルエンザウイルスの感染が原因で脳に異常が生じ、インフルエンザの合併症としてもっとも重篤な疾患です。5歳以下の小児に多く発症しますが、大人が発症するケースもあります。
インフルエンザの主な症状である発熱や倦怠感、関節痛などに加えて、けいれんや意識障害が起こります。また特異な症状として、突然、言葉や行動などに異変が生じることもあり、時として命にかかわります。
診断には、インフルエンザの検査キットで感染を確認したうえで、頭部MRI検査、髄液検査、脳波検査などを行います。治療では抗インフルエンザ薬とともに、脳症に対してステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量療法を行う場合があります。
原因
インフルエンザ脳症の正確な原因はわかっていません。しかし、インフルエンザウイルスに感染し発症した後に起きるため、インフルエンザウイルスと戦うために活性化した免疫細胞が脳や神経細胞にダメージを与え、炎症をひきおこすことによるものと考えられています。
また、炎症によって脳がむくんだ状態になり、脳内の圧力が上昇して、さらに脳に障害を与える可能性も指摘されています。
症状
症状には、一般的なインフルエンザの症状で生じる発熱や倦怠感、関節痛、鼻汁などに加え、意識障害、けいれん、異常な言動・行動があります。けいれんは、何度もくり返したり、15分以上つづいたりすることが多く、意識障害もたびたび起こります。
高熱によるせん妄が起こると、突然、意味不明の言葉を発したり、家族がわからなくなったり、幻視、幻覚が生じることにより異常な状態になることがあります。高い所から飛び降りようとすることもあるので、周囲の人は十分な注意が必要になります。こうしたせん妄は夜間に暗い場所にいると起こることが多く、明るい場所では症状が軽減するという報告もあります。
検査・診断
インフルエンザ脳症では、問診、診察の後、インフルエンザ迅速検査キットを用いて感染を確認します。
症状や意識障害などの有無からインフルエンザ脳症を疑ったときには、まず血液検査で全身の状態や脳や腎臓、肝臓などの臓器の状態を調べ、さらに脳波検査により脳の機能、意識障害やけいれんの原因などを調べ、頭部MRI検査で脳の炎症の有無や、炎症の広がりなどを確認します。また、インフルエンザ脳症は、熱性けいれん、脳腫瘍や脳出血と似た症状を示すことがあるため、頭部CT検査ではそれらの疾患との鑑別を行い、さらに免疫細胞の数や種類を調べるために髄液検査を行うこともあります。
治療
まず原因となるインフルエンザウイルスに対する薬による治療が行われ、ラピアクタ、タミフル、リレンザ、イナビルなどの抗ウイルス薬を用います。また、脳の炎症や脳のむくみを改善するためにステロイドパルス療法を行ったり、けいれんが生じたら抗けいれん薬を投与したりします。
集中治療による全身管理が必要なことが多く、脳圧を下げる点滴治療などを行います。インフルエンザ脳症は命にかかわることもあり、てんかんや手足の麻痺、知的障害などの後遺症が残る場合もあるため、症状が出たら早めの受診が望まれます。
セルフケア
病後
インフルエンザ脳症の死亡率は約30%と高く、後遺症が子どもの約25%にみられます。
インフルエンザの症状に加えて、けいれんや意識障害などが生じた場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
予防
インフルエンザ脳症の原因はインフルエンザへの感染によるため、 発症を予防するにはインフルエンザワクチン接種がもっとも有効です。ほかの感染症の予防と同様に、流行期には人混みを避け、外出から帰ったときはうがい・手洗いを欠かさず、また室内の湿度が低くなりすぎないように注意しましょう。
監修
昭和大学医学部脳神経外科 名誉教授
藤本司
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