急性脳症きゅうせいのうしょう
最終編集日:2023/7/26
概要
脳や中枢神経系には原因となる病気が存在しないのに、ウイルスに感染したときなど、からだが病原体に反応して脳に急激なむくみ(浮腫)が生じて症状を起こす病態です。おもな原因は、インフルエンザなどのウイルス感染ですが、糖尿病などによる代謝異常や、腫瘍などの他疾患などが原因で急性脳症を発症する場合もあります。ここでは乳幼児や小児に多くみられる感染が原因の急性脳症について述べます。
急性脳症にはいくつかのタイプがありますが、日本で多いのは、けいれん重積型急性脳症(AESD)と呼ばれるもので、急性脳症の約30%を占めると報告されています。なお、よく似た病名に「脳炎」があります。現れる症状はどちらも変わりませんが、おおよそ病理学的には、以下のように区別されています。
●脳症……脳に直接の感染はなく、脳以外の感染による影響が脳にも現れるもの
●脳炎……脳や髄液から原因となるウイルスが検出され、脳に炎症が起きているもの
原因
ウイルスや細菌の感染が原因となります。頻度の高いものとして、インフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)があり、そのほか、ロタウイルス(急性重症胃腸炎)、ムンプス(流行性耳下腺炎:おたふくかぜ)、腸管出血性大腸菌(O157)、サルモネラ菌などが挙がっています。
症状
感染症による発熱に伴って、けいれん、嘔吐、意識障害などが比較的急激に起こります。
感染によって自己免疫系が過剰に反応することや、全身の血管透過性(血管壁を通して体液を移動させる機能)が亢進して脳にむくみ(浮腫)をひきおこすことなどから、これらの症状が現れます。症状を訴えられない乳幼児では、元気がない、不機嫌、哺乳の低下などがみられます。
AESDでは、発熱後24時間以内にけいれんで発症し、けいれんが長くつづいたり、短い発作が意識の回復がないままくり返され、これが15分程度から、1時間以上に及ぶこともあります。持続時間が5分以上(米国学会のガイドライン〈2012年〉)、あるいは30分以上(国際抗てんかん連盟の定義〈2018年〉)になると、けいれん重積と呼ばれます。その後、けいれんや意識の状態は一度回復します。しかし、発症から4~6日で2度目のけいれんと意識障害が現れます。
検査・診断
インフルエンザなどの感染症の経過中、あるいは治癒直後であることを確認し、血液検査のほか、頭部CT・頭部MRI・脳波検査などが行われます。熱性けいれん、ウイルス性脳炎、脳脊髄炎、代謝異常などによる脳症などとの鑑別が重要です。
治療
急性脳症に対する治療法は、まだ確立されていません。対症療法が中心になり、けいれんに対して抗けいれん薬を、炎症反応を抑えるために抗炎症薬やステロイド薬などが用いられます。意識レベルの低下や血圧上昇、瞳孔に異常がみられる、けいれん重積をくり返す場合には、脳浮腫の進行の可能性があるため、集中治療室での全身管理・治療が必要になることもあります。
急性脳症では死亡例もあり、約35%の患者さんに何らかの後遺症が残るという報告もあります。
セルフケア
予防
●セルフチェック
乳幼児はけいれんやひきつけを起こしやすく、症状の見極めがむずかしいことがあります。インフルエンザなどに感染中、あるいは治癒後に次のようなことがみられたら、速やかにかかりつけ医を受診してください。
・けいれんが5分以上つづく
・けいれんが治まってもからだに力が入らず、ぐったりしている
・けいれんはないが、いつもと違う言動がある
・ぼんやりしたり、うつらうつらする状態がつづく
また、まれに解熱薬(アスピリンなど)や気管支を広げるぜんそく薬、抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬などの副作用として、急性脳症の発症に関係する場合があります。薬を飲ませる場合には主治医に確認し、症状が現れたら適切に対処しましょう。
監修
昭和大学医学部脳神経外科 名誉教授
藤本司
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