エコノミークラス症候群
えこのみーくらすしょうこうぐん

最終編集日:2023/5/22

概要

エコノミークラス症候群は、静脈血栓塞栓症(VTE)という病気のひとつです。長時間のフライト(移動)などの際、座席に座ったままでいることで、下肢の血流が悪くなり、血液が固まりやすくなって血栓ができる状態を指します。両下肢に起こることはまれで、多くは左下肢に発症します。

ロングフライト血栓症、旅行者血栓症などとも呼ばれ、ビジネスクラスやファーストクラスを利用したときにも起こります。また、災害時の車中泊や避難所生活、長期療養などで仰向けに寝た状態がつづいた場合にも、発症のリスクが高くなることがわかっています。

原因

長時間の座位によって、下肢静脈の血流が停滞することが原因です。飛行機搭乗中だけでなく、自動車・列車・船舶などでの長時間の移動なども含まれます。移動時間6時間以上のフライトでリスクが高くなるとされ、移動距離・移動時間の長さに比例して発症率が上がることがわかっています。機内の乾燥や低い気圧でからだの水分量が減り、血液の粘度を上げることも誘因となります。

近年では、地震などの大きな災害時の車中泊や避難所生活で下肢を動かしにくい生活がつづいたことで、この病気を発症したケースが報道され、注目を集めました。なお、高齢、肥満、妊娠、大きな手術を受けた直後の人などは、ハイリスクになるとされています。

エコノミークラス症候群
エコノミークラス症候群

症状

座っているときに、足のむくみ、ひざの腫れ、ふくらはぎや大腿部の痛みが起こります。これらの症状がまったくない場合もみられます。移動が終わって立ち上がったときに、動悸、胸痛、呼吸困難が現れます。これは、下肢にできた血栓が、急激に流れやすくなった血流に乗って心臓を経て肺に到達し、肺動脈(実際には静脈血)を詰まらせてしまうことが原因です。重症の場合はショックをひきおこし、生命にかかわることもあります。

検査・診断

発症前の状態、Wellsスコア(VTEのリスクを評価する)からエコノミークラス症候群が疑われたら、早急に検査・診断を行い、治療を始める必要があります。

血液検査でDダイマーという凝固マーカーを調べます。Dダイマーは血液の固まりやすさ(血栓のできやすさ)をみる指標で、値が高いと血栓の存在を表します。並行して、下肢静脈エコー、造影CT、肺血流シンチグラフィー、肺動脈造影などの画像検査を行い、血流・血管の様子や血栓の有無などを精査します。

治療

肺動脈内の血栓の数が少なく、自覚症状が強くない軽症の場合は、抗凝固薬(ヘパリン、ワーファリン、DOACなど)を用います。血栓が多く、呼吸困難や胸痛などの症状が強く、ショック状態に陥っている場合は、入院し、t-PTという薬を用いた血栓溶解療法を行います。さらに重症の場合は、カテーテル治療や手術で血栓を取り除きます。また、下肢に血栓が残っている場合は、下大静脈フィルターというフィルターを腹部の静脈に挿入して、肺に血栓が運ばれないようにすることもあります。

セルフケア

予防

長時間にわたる移動や車中泊、避難所生活などでは、同じ姿勢がつづかないように、次のようなことを実践して予防に努めましょう。

●2~3時間ごとに立ち上がって足踏みする、歩く、下肢の屈伸運動をする

●座っているときに、かかとの上げ下ろし運動をする、ふくらはぎをマッサージする

●ベルトなどで締め付けない、ゆったりした服装にする

●水分を十分にとる

●コーヒーやアルコールは控える

●足を上げて眠る

監修

小田原循環器病院 循環器内科 院長

杉薫

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