糖尿病性腎症とうにょうびょうせいじんしょう
最終編集日:2021/12/21
概要
糖尿病が原因で起こる腎機能障害です。初期の段階では自覚症状がほとんどなく、糖尿病の進行に伴って全身の血管に障害が起こり、腎障害がゆっくり悪化します。
腎症がさらに進むと腎不全となり、透析治療が必要となります。透析治療の新規導入の原因疾患のなかではもっとも多く、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害と並んで、糖尿病の三大合併症(細小血管症)のひとつとされています。
原因
糖尿病で高血糖が持続すると特定の臓器だけではなく、全身の血管で慢性的な血管障害がひきおこされます。腎臓には、糸球体と呼ばれる毛細血管が塊状になっている部分があり、血液をろ過して尿をつくるフィルターの機能を果たしています。高血糖状態がつづくことで、糸球体を形成する毛細血管が損傷を受け、腎臓のろ過機能が低下し、老廃物を排出することができなくなり、本来は体外に排泄しない、からだにとって重要な物質も尿に漏れ出るようになります。
症状
糖尿病性腎症は、糖尿病を発症するとすぐに生じるのではなく、5〜15年程度かけて発症します。
・第1期:腎症前期
ごく微量のたんぱく質(微量アルブミン)が尿に漏れ出てくる。
・第2期:早期腎症期
高濃度のたんぱく尿が出るようになり、次第に血圧も上昇して血管が傷つけられ、さらに腎臓障害を悪化させる。この段階までは自覚症状がないうちに病状が進行する。
・第3期:顕性腎症期
むくみ、貧血、息切れ、胸の苦しさ、食欲不振、全身倦怠感などの症状を感じるようになる。
・第4期:腎不全期
顔色が悪い、激しい疲労感、腹痛、味覚異常、吐き気、発熱、筋肉の硬直、手のしびれや痛みなどの症状が出てくる。さらに進行すると末期腎不全となり、透析治療の導入が必要となる。
検査・診断
糖尿病性腎症の診断では、尿検査と血液検査を行います。
●尿検査
・尿たんぱく、尿潜血、尿中アルブミン排泄量
尿たんぱくが現れるのは腎症がかなり進行した段階なので、糖尿病性腎症を早期発見するためには、尿中に漏れ出た「微量アルブミン」というたんぱく質を測定する。腎症が進行し、腎臓の糸球体を形成する毛細血管のフィルター機能の障害が進行すると、本来は体外に排泄されない、からだにとって必要不可欠なたんぱく質であるアルブミンが尿中に認められるようになる。
●血液検査
・推算糸球体ろ過量(eGFR)
血液中のクレアチニン濃度(Cr)を年齢や性別で換算した、推算糸球体ろ過量(eGFR) を用いて腎症の病状を評価する。
治療
腎症の有無にかかわらず、糖尿病の治療は血糖コントロールが基本です。高血圧を合併することが多いため血圧コントロールも重要です。
運動療法や食事療法により、適切なエネルギー量、塩分やたんぱく質の摂取量を管理します。
薬による治療では、血糖降下薬やインスリン、血圧管理としての降圧剤などを使用することがありますが、腎機能の低下に従って薬剤の調整が必要となります。
・第1期
低カロリー食や運動療法を基本とした血糖と血圧のコントロールによって、腎症の改善が期待できる段階なので、尿アルブミン量の測定を定期的に行ない、病状の進行を防ぐことが重要となります。
・第2期
血糖降下薬の服用もしくはインスリンの注射による厳格な血糖管理を行います。医師の指導のもと、たんぱく質と塩分の制限や運動を行い、血圧管理も必要となってきます。
・第3期
減塩による血圧管理、たんぱく質制限による腎臓への負担軽減、むくみがある場合は水分制限などを取り入れ、より厳格な血糖・血圧コントロールが必要となりますが、低血糖にならないよう注意が必要です。
・第4期
食事療法としてたんぱく質の摂取制限を強化します。血圧管理の悪化や尿毒症症状が強くなった場合、透析治療が検討されます。透析治療の導入を少しでも遅らせるため、厳格な血圧管理とたんぱく質制限を継続しながら、医師の指導のもとで治療を進めます。
・第5期(透析療法期)
透析治療を必要とする段階。腎移植も検討されます。
セルフケア
療養中
第1期のまだ腎症が発症していない段階では、血糖コントロール改善をメインに、適度な運動、禁煙などを取り入れて、血糖値、血圧、脂質を良好に保つことが腎症の予防につながります。
第2期以降は、病態によって一人ひとり異なるため、医師の指導のもと、腎症を悪化させないような取り組みが必要です。
予防
糖尿病性腎症の予防は、血糖コントロールと動脈硬化予防が基本です。
健康診断で糖尿病や腎機能の低下を指摘されたら、放置せずに医療機関を受診し、生活習慣の改善、必要があれば薬物療法(薬による治療)などの指導を受け、定期的な受診を継続することが大切です。
監修
しみず巴クリニック腎臓内科
吉田顕子
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