尿崩症
にょうほうしょう

最終編集日:2023/11/1

概要

尿崩症は、脳の視床下部で産生され、下垂体後葉から血中に分泌されるバソプレシン(AVPあるいはADH)という抗利尿ホルモンが、何らかの原因で不足、あるいは効かない状態になって起こります。バソプレシンは強い抗利尿作用(尿量を減少させる)をもつため、効果が低下すると尿量が増えてしまいます。

ADHの脳内での分泌が障害される「中枢性尿崩症(ADH分泌低下症)」と、腎臓の腎集合管という部位でのADHへの反応性が低下(ADHが効かない)して起こる「腎性尿崩症」に分けられます。

原因

中枢性尿崩症は、脳の視床下部や下垂体などが障害されて起こるADHの産生・分泌不足によって、多尿をきたした状態です。原因は、腫瘍(頭蓋咽頭腫、リンパ腫、胚細胞腫瘍、転移性腫瘍など)、脳梗塞・脳出血などの血管性疾患、サルコイドーシス、炎症(IgG4関連下垂体炎、リンパ球性下垂体炎など)、脳炎・結核などの感染症、外傷、外科手術、原因が特定されない特発性など、多岐にわたります。

なお、ADHの標的器官である腎臓に異常があり、ADHの作用が減少した病態は腎性尿崩症と呼ばれ、遺伝による先天性のものと、何らかの疾患が原因の後天性のものがあります。後天性では多発性嚢胞腎、鎌状赤血球貧血、慢性腎盂腎炎シェーグレン症候群、骨髄腫、高カルシウム血症、低カリウム血症などが誘因となり、また服薬中の薬剤(抗菌薬、抗ウイルス薬、抗リウマチ薬、躁状態の治療薬など)の副作用として現れる場合もあります。

症状

多尿から口の渇き(口渇)が生じ、多飲をきたします。睡眠中でも症状がつづくため、夜間尿・夜間飲水で睡眠障害に陥る場合も少なくありません。

多尿とは、1日3L以上、あるいは40mL/㎏以上になるものを指します(尿量の1日の正常基準量は、1~2L)。尿崩症の場合は、尿量は1日3L以上になり、回数も1~2時間おきに増えます。また、中枢性尿崩症は腎性尿崩症にくらべて、急激に発症するとされています。そのほかの多尿をきたす疾患として、心因性多飲症、糖尿病などが挙げられます。

検査・診断

問診の後、尿量の測定、尿検査、血液検査が行われます。尿検査では尿の濃さを表す尿浸透圧や尿比重などを、血液検査では血清ナトリウム(尿崩症では高ナトリウム血症となる)、血漿浸透圧、血漿中AVP濃度などを検査します。また、尿の濃縮力以外の腎機能が正常であるかどうかも確認します。

確定診断には、バソプレシン負荷試験と水制限試験が行われます。バソプレシン負荷試験は、外因性のADHであるバソプレシンを注射して尿量や尿浸透圧の変化をみる検査です。水制限試験は、一定時間(約12時間、あるいは3%の体重減少がみられるまで)水分摂取を制限し、その間の体重、尿量、尿浸透圧、血液中の電解質濃度などを測定するものです。中枢性尿崩症ではバソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇が、水制限試験では尿浸透圧の変化はあまりみられないという結果になります。一方、腎性尿崩症では、いずれの検査でも尿量の減少や尿浸透圧の変化はあまりみられません。

中枢性尿崩症の原因疾患特定のために、脳のMRI検査、CT検査、さらに下垂体MRI検査などが用いられます。

また、中枢性尿崩症に続発性副腎皮質機能低下症を合併している場合は、多尿がみられない「仮面尿崩症」を現すことがあるため、注意が必要です。

治療

原因疾患を特定し、その治療を優先します。

中枢性尿崩症では、ADHの補充として、デスモプレシンを点鼻、あるいは注射します。デスモプレシンはバソプレシンに似た作用をもち、腎集合管での水分の再吸収を促進させ、尿量を減らします。服薬中は用量・用法、さらに飲水量に注意します。過剰投与で、低ナトリウム血症や水中毒を起こさないようにします。

腎性尿崩症に有効な治療法はまだ確立されていません。水分摂取を促して脱水にならないようにします。塩分やたんぱく質制限が尿量の減少に効果を示すこともあります。また、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やサイアザイド系利尿薬のもつ、腎臓での水分とナトリウムの再吸収促進作用が効果を上げる場合もあります。

セルフケア

療養中

腎性尿崩症は遺伝性のものもあり、乳幼児から発症します。尿量、哺乳の様子、飲水の様子をみて、速やかに症状に気づき、重度の脱水に陥らないようにすることが大切です。

監修

医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長

富田益臣

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