膀胱がんぼうこうがん
最終編集日:2024/3/29
概要
膀胱は、腎臓でつくられた尿をためて、一定量になったら排泄する働きをもち、内側から、粘膜上皮(上皮)、粘膜結合組織、筋層、脂肪組織と、複数の層からなっています。
膀胱がんは膀胱に発生するがんで、80%以上が上皮にできる「尿路上皮がん」です。初期には粘膜の浅いところに、カリフラワーのような形で現れますが、進行すると粘膜結合組織、筋層と、深い層に浸潤して(染み込むように広がって)いきます。膀胱がんでは、がん細胞が筋層に達しているかどうかが治療法の選択や予後に大きく影響します。
2019年の統計では年間の患者数が約2万3000人で、60代以降に好発し、男女比は4対1と、男性に多いがんです。なお、同じ尿路上皮をもつ腎盂(じんう)や尿管にもがんが発生し、膀胱がんを含めて「尿路上皮がん」と総称することもあります。
原因
喫煙や、ある種の化学物質(芳香族アミンなど)に職業的に長い間触れていることなどが原因として挙げられます。
そのほか、尿路の慢性炎症、長期間の尿道カテーテル留置、ほかの病気で受けた骨盤内放射線治療、シクロホスファミドを用いた抗がん剤治療などが誘因になることもあります。
症状
膀胱がんの患者さんの約80%に、排尿痛や尿の出にくさなどがないのに、突然、血尿が現れる「無症候性血尿」が起こります。血尿の多くは一時的で治まってしまうため、多くは見過ごしてしまいがちです。
頻尿、排尿痛、残尿感など、膀胱炎のような膀胱刺激症状がつづくこともあります。
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検査・診断
まず、尿検査と超音波(エコー)検査が行われます。尿検査では腎機能の評価や炎症の有無をみるほか「尿細胞診検査」で尿中にがん細胞が含まれているかどうかを調べます。尿中にがん細胞が認められ、超音波検査で膀胱内にがんを疑わせる影があれば「膀胱鏡検査」を行って、膀胱や尿道の様子を肉眼で観察します。最近ではさらに診断能力の高い蛍光膀胱鏡を用いた「光線力学診断」を行うことで、肉眼では判断困難な小さな病変も検出できるようになっています。
がんと診断されたら、CTやMRIなどの画像検査で、悪性度(がんの性質)、進行度(浸潤度)、リンパ節転移の有無などを精査します。
後述する「経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)」で組織を採取して病理検査を行うことで、確定診断となります。がん細胞が筋層に届いていなければ「筋層非浸潤性」、筋層に届いていれば「筋層浸潤性」と診断されます。
膀胱炎や前立腺肥大症、膀胱結石など、ほかの泌尿器科の病気との鑑別も必要です。また、尿路上皮がんは膀胱のほかに腎盂や尿管にも多発する場合が少なくないため、他部位のがんの有無を確認することも大切です。
治療
基本的にすべてのケースでTUR-BTが行われます。尿道から内視鏡を入れ、電気メスでがんを削りとる方法で、確定診断にも用いられます。
●筋層非浸潤性
早期の筋層非浸潤性で、1回のTUR-BTでがんを完全に削りとることができたら、治療は終了となります。
膀胱がんの特徴のひとつに、再発のしやすさがあります。筋層非浸潤性であっても、TUR-BT後の再発率は30~70%とされています。再発につながるがん細胞の見落としを防ぐために、確定診断時にも使用されている5-アミノレブリン酸(5-ALA)を用いた光線力学診断を併用しながらの手術が普及し始めています。
再発リスクがある場合は術後に抗がん剤やBCG(ウシ型弱毒結核菌)を直接、膀胱に注入する「膀胱内注入療法」が併用されます。BCGは結核の予防ワクチンとして知られていますが、免疫力を高めてがん細胞を破壊する働きをもっています。筋層非浸潤性と筋層浸潤性の判断がむずかしい場合は再度TUR-BTを行い、浸潤が推測される部分を切除し、膀胱内注入療法を行います。
●筋層浸潤性
TUR-BTでがん細胞を完全に取り切ることがむずかしいため「膀胱全摘除術」を行います。通常、男性は膀胱、尿管、前立腺、精嚢、女性は膀胱、尿管、子宮と腟壁の一部を切除し、両者ともに骨盤リンパ節郭清も行います。切除と同時に「尿路変向術」を行います。尿路変向術にはいくつかの術式がありますが、多くはストーマ(人工膀胱)を造設する必要があります。
手術は腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術も広く行われています。手術の前に抗がん剤を用いてがんを小さくする「術前補助化学療法」が行われることもあります。
ただし、高齢者やパフォーマンスステータス低下、心疾患などの基礎疾患がある場合、また患者さんが膀胱全摘除術を拒否した場合などは「膀胱温存療法」を選択することもあります。その際は、TUR-BTや化学療法、放射線療法を併用した集学的治療を行います。
●再発時の治療
筋層非浸潤性では、再発時もTUR-BTによる治療を受けることができます。なかには3回、4回と再発をくり返す場合もあります。再発をくり返すうちに、がんの悪性度が高くなってくる場合や、BCGの膀胱内注入療法の副作用(排尿痛、血尿など)に耐えきれない場合には、膀胱全摘除術を考慮します。
●リンパ節や遠隔転移がある場合
基本的に手術は適応されません。抗がん剤を用いた「全身化学療法」のほか、免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。
セルフケア
予防
筋層非浸潤性では、治療後の5年生存率は90%以上。一方、筋層浸潤性では50~70%になります。また、筋層浸潤性では、膀胱全摘除術とともに尿路変向術が必要になり、治療後のQOL(生活の質)も低下してしまいます。何よりも早期発見が重要といえるでしょう。一度でも血尿がみられたら泌尿器科の診察を受け、年に1回の健康診断は継続しましょう。
また、膀胱がんの確立されたリスク因子は喫煙です。喫煙者の膀胱がんリスクは、非喫煙者の2倍以上といわれています。予防のためには、禁煙が重要です。
監修
しみず巴クリニック 腎臓内科
吉田顕子
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