手掌多汗症の新薬(保険適用)の効果

最終編集日:2023/9/4

2023年6月、原発性手掌(しゅしょう)多汗症の新しい治療薬が保険適用となりました。1日1回、就寝前に手のひらに塗ることで発汗を抑える効果がある、今までにないタイプの薬です。


●手のひらに大量の汗をかく手掌多汗症

多汗症とは、日常生活に困るほど多量の汗が出てしまう状態をいいます。全身の汗が多い「全身性多汗症」と、からだの一定の部分からの汗が多い「局所多汗症」があります。

局所多汗症の一種で、手のひらからの汗が多い状態を「手掌多汗症」といい、国内患者数は約500万人。その多くが10代頃に発症しています。たとえばパソコンの作業、スマートフォンの操作、書類の書き込み、楽器の演奏などの際に手で触れた物が多量の汗でぬれてしまうため、勉強や仕事、社会活動に支障をきたし、患者さんを悩ませています。


●手のひらの汗は「精神的発汗」

汗には体温調整の役割があり、暑かったり、運動をして体温が上昇すると汗をかいて体温を下げるようになっていますが、手のひらと足底(足裏)の発汗は、これとは別物です。手のひらと足底から出る汗は「精神的発汗」で、緊張やストレスなどが発汗のきっかけになります。温熱刺激では発汗は生じず、睡眠で発汗が消失するという特徴があります。

手のひらの汗はエクリン汗腺という器官から出てきます。指令を出すのは脳で、指令を受けた交感神経は、発汗を促すアセチルコリンという物質を出し、それがエクリン腺の受容体と結合することで汗が分泌されます。手掌多汗症は、この指令が過剰になったために起こると考えられています。

そこで、手掌多汗症の治療薬として、発汗を促すアセチルコリンの放出を抑制する「ボツリヌス毒素の注射薬」や「抗コリン経口薬」、あるいは、皮膚に塗って汗の出口を塞ぐ「塩化アルミニウム外用薬」などが使われてきました。


●就寝前に手のひらに塗るだけで発汗を抑える治療薬

新薬の「アポハイド®ローション」は、TDDS(経皮薬物送達システム)という皮膚から有効成分を吸収させる技術を用いて開発された塗布剤で、従来の薬とは作用の仕方が異なります。有効成分であるオキシブチニン塩酸塩が皮膚から吸収され、エクリン汗腺にある受容体に結合することで、発汗を促すアセチルコリンをブロックし、過剰な発汗を抑えます。

使用法は1日1回、就寝前に手のひらに塗って就寝し、起床後に手を洗います。これを続けることで、安定した効果が期待できるとされています。なおこの薬が適用されるのは病気や薬の副作用といった明らかな原因のない「原発性手掌多汗症」に対してです。


〈原発性手掌多汗症の診断基準〉

手の多汗症状が6カ月以上続き、次の2項目以上に当てはまると「原発性手掌多汗症」と診断されます。

□最初に手の多汗症状が出たのが25歳以下。

□左右の手のひらに汗をかく。

□睡眠中は発汗が止まっている。

□週に1回以上、手の多汗症状がみられる。

□家族に同じ症状の人がいる。

□手の発汗のため日常生活に支障をきたしている。

監修

池袋西口ふくろう皮膚科クリニック 副院長

張本敦子

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