魚の生食時はアニサキスによる食中毒に要注意!

最終編集日:2025/10/6

秋はサンマやカツオなど、旬の魚を生食(なましょく)して楽しむ機会が増える季節です。

ただし、注意したいのが寄生虫「アニサキス」による食中毒です。おなかに強い痛みを引き起こすことがあり、ニュースやSNSでも取り上げられるなど注目が高まっています。


アニサキスは、海にいる哺乳類や魚介類に寄生する「線虫」の仲間の総称です。サバ、アジ、カツオ、サンマ、イワシ、サケ、ホッケ、イカなど、私たちにとって身近な魚介類に寄生しています。その幼虫は、白くて2㎝ほどの糸のような見た目をしているので、目視で確認できることもあります。宿主である魚が死ぬと、内臓から筋肉(つまり私たちが食べる魚肉の部分)へ移動するため、その部分の魚肉を人が食べることでアニサキスが体内に入り込むことがあります。

アニサキスは人に寄生して成虫まで成長することは原則ありませんが、胃や腸の粘膜に突き刺さることで食中毒としての症状(アニサキス症)を引き起こします。


●どんな症状が出るの?

<胃アニサキス症>

食後数時間〜12時間以内に、みぞおちの激しい痛み、吐き気、嘔吐が現れます。痛みには波があり、強弱をくり返すこともあります。

<腸アニサキス症> 

食後十数時間〜数日後に、下腹部の強い痛みや吐き気、嘔吐、ときに腹膜炎のような症状が現れます。


また、アニサキスが原因で起こる疾患には「アニサキスアレルギー」もあります。これは生きているアニサキス幼虫だけでなく死んだ個体や分泌物を含む魚肉でも発症し、全身のじんましんや激しい消化器症状、ときにアナフィラキシーなど重いアレルギー反応を引き起こす恐れがあります。

「魚(魚肉)アレルギーだと思っていたら、実はアニサキスアレルギーが原因だった」という報告例もあるので、魚介類の摂取後にアレルギー症状を自覚したことがある人は、一度、医療機関に相談するとよいでしょう。アレルギー科またはアレルギーが専門の医療機関であれば、なおよいでしょう。アナフィラキシーを生じた際には救急車の要請を検討してください。


●食中毒になったときは?

生きているアニサキスが人体に入って症状をもたらした場合、それに対して有効な特効薬はありません。

胃の中にいる場合は、内視鏡検査(胃カメラ)でアニサキスを確認し、取り除くことで多くのケースでは症状が改善します。

腸の場合は緊急でのカメラでの確認が難しく、絶食や痛み止めなどの対症療法が中心です。まれに、炎症が強く腸にむくみが生じることで、腸閉塞を起こして外科的処置が必要になったケースも報告されています。

魚介類の喫食後に「激しい胃痛がある」「刺すような腹痛が続く」と感じたら、放置せずに医療機関を受診しましょう。この場合には、内科や消化器科、夜間・休日であれば救急診療科への受診を検討してください。



●アニサキス症を予防するには?

次のようなことに気をつけましょう。


<魚介類の生食を避ける/生食での喫食頻度を減らす>

鮮度が落ちた魚や、内臓の生食は控えましょう。適切な内臓処理が施された魚肉を選んで購入しましょう。

自身で釣った魚や鮮魚を一尾丸ごと購入した場合は、速やかに内臓を取り除くことが大切です。


<冷凍、加熱で確実に>

冷凍(-20℃で24時間以上)、加熱(中心温度60℃で1分以上)でアニサキスは死滅します。

欧米では非加工の「生食」を禁じ、飲食店で販売・提供する魚肉の冷凍や加熱を義務付けている地域もあります。


<目で確認する(目視)>

サバやイカなど天然の魚介類には、アニサキスが寄生していることがあります。調理する前、可食部に白い糸状の幼虫がいないか、よく確認しましょう。UV(紫外線)を使用したブラックライトを当てることでアニサキスを見つけやすくする装置を利用している飲食店もあります。


「アニサキスはしょうゆやわさびで死ぬ」「奥歯でよく噛めば安心」……そんなふうに聞いたことがあるかもしれませんが、どれも誤りです。アニサキスは調味料ではすぐに死滅せず、人の奥歯では噛み殺すことはできません。口の粘膜や舌にアニサキスが刺さった事例も報告されています。

強い痛みを伴うため、怖いイメージのあるアニサキス症ですが、正しい知識と対策を行うことで発症する機会を減らすことができます。

ポイントを押さえて、秋の旬魚を安心して楽しみましょう。


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監修

昭和医科大学 医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 准教授 /昭和医科大学 医学部 医学教育学講座 准教授

鈴木 慎太郎