ラムゼイ・ハント症候群の原因と治療
最終編集日:2025/7/28
ラムゼイ・ハント症候群とは、ヘルペスウイルスの一種である水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で起こる、神経障害です。
多くの人が子どもの頃にかかる「水ぼうそう(水痘)」のウイルスは、治った後も体内に潜伏し続けます。加齢やストレス、疲労などでからだの抵抗力が低下すると、潜んでいたウイルスが再活性化し、帯状疱疹を発症します。
このウイルスは特に神経を好む性質があり、顔面神経がウイルスに侵されることで耳のなかや周辺に帯状疱疹が現れ、顔面神経麻痺を引き起こす状態を「ラムゼイ・ハント症候群」と呼びます。
顔面神経麻痺を引き起こす疾患で約60%を占める「ベル麻痺」に次いで、ラムゼイ・ハント症候群は約20%を占めています。
●突然起こる顔の異変
ラムゼイ・ハント症候群は、ある日突然、顔の動きに異変を感じるのが特徴です。
目を閉じられない、眉があがらない、口が動かない、笑えない、表情を変えられないなど、顔の筋肉を動かしにくくなります。また、顔の歪みや味覚障害を訴える場合もあります。さらに、耳のなかや周辺に水ぶくれや発疹が現れ、耳の痛み、耳鳴り、難聴、めまいといった症状を伴うこともあります。これらの症状はすべてが同時に現れるとは限らず、順序にも個人差があります。
顔面神経麻痺を引き起こす「ベル麻痺」も、同様に顔の動かしにくさなどを感じますが、耳の帯状疱疹、難聴、めまいといった症状は現れません。
●キーワードは「3日以内の治療」
ラムゼイ・ハント症候群は、早期発見と治療が非常に重要です。発症から3日以内に治療を開始することが、後遺症のリスクを下げ、完治できるかどうかの分かれ道になるとされています。時間が経過しウイルスが増えていくほど薬の効果が十分に得られず、顔に麻痺が残ってしまう可能性が高くなります。実際に、約3割の患者が完全に回復せず、後遺症に悩む人も少なくありません。顔面神経麻痺が疑われる場合は、早急に耳鼻咽喉科を受診しましょう。
治療の基本は薬物療法です。抗ウイルス薬によってウイルスの増殖を抑え、ステロイド剤で神経の炎症を鎮めます。症状が重い場合は、外科的治療を検討することもあり、後遺症を防ぐために、リハビリテーションを並行することがすすめられています。
●予防には生活習慣の見直しとワクチン接種を
ラムゼイ・ハント症候群の発症には、免疫機能の低下が深く関わっています。ストレスをため込まない、栄養バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠など、基本的な生活習慣の見直しが予防につながります。
さらに、帯状疱疹ワクチンの接種はラムゼイ・ハント症候群の予防にも有効であると考えられています。2025年からは定期接種の対象にもなっているため、対象年齢の人は積極的に接種を検討されてはいかがでしょうか。
監修
東海大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授
濱田昌史