甲状腺悪性リンパ腫こうじょうせんあくせいりんぱしゅ
最終編集日:2023/5/24
概要
甲状腺の悪性リンパ腫は、甲状腺悪性腫瘍の約2%を占めています、そのほとんどが、慢性甲状腺炎(橋本病)の長期経過中に発生し、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)とMALTリンパ腫が多くみられます。中高年の女性に好発します。
リンパ腫は血液のがんのひとつで、リンパ系細胞が腫瘍化したものです。リンパ節や胸腺、脾臓など、おもにリンパ系の臓器に発生しますが、リンパ系以外の臓器にも起こり、胃、腸、甲状腺などが挙げられます。一般的にリンパ腫は悪性ですが、甲状腺に発生するリンパ腫は予後のよいものが多いことが特徴です。かつては予後不良だった甲状腺の悪性リンパ腫は、治療の進歩により、現在の5年生存率は80%を超えています。
原因
多くの症例で原因は不明といわれています。MALTリンパ腫では、慢性甲状腺炎が発症の原因になることもあります。
症状
腫瘍の発育は速く、のどの甲状腺の部分が急に腫れる、嗄声(させい)、呼吸困難、嚥下困難、発熱などが起こります。腫瘍が急速に大きくなった場合、急な呼吸困難を起こすこともあります。
検査・診断
問診、触診、超音波(エコー)検査で悪性リンパ腫が疑われる場合は、CT検査やPET検査で腫瘍の大きさや広がり、形、周辺臓器への圧迫、転移の有無などを調べます。並行して、腫れた甲状腺の一部を採取して組織検査を行う「穿刺吸引細胞診」が行われます。しかし、穿刺吸引細胞診では診断がつきにくいケースが多く、また、腫瘍の性質や進行度を確定させるためにも、最終的な診断には、外科的に切開して採取・検査する生検(オープンバイオプシー)を行うのが一般的です。
同時に血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べ、機能の状態を把握します。リンパ腫の組織型の特定が困難な場合は、IGH遺伝子再構成検査などの補助診断が必要になることもあります。それらをもとに慢性甲状腺炎やほかの甲状腺腫瘍との鑑別が行われます。
治療
病期によって異なりますが、おもに化学療法(複数の抗がん剤を組みあわせて行うCHOP療法やR-CHOP療法など)と放射線治療が行われます。腫瘍が甲状腺内に限局していれば、手術で甲状腺を切除する場合もあります。治療法はリンパ腫の組織型、大きさ、場所、性質(悪性度)、患者さんの年齢・全身状態などを考慮して決定されます。
もっとも頻度の高いDLBCLは大きく増殖しやすく、呼吸困難に陥ることもあります。その場合は気道確保、または甲状腺を切除することで呼吸を改善させます。進行が速いタイプのものも含まれますが、化学療法と放射線療法が効果を上げることから、寛解は得やすいとされています。ただし、全身に転移する場合もあり、治療後の経過観察が重要です。
次に多くを占めるMALTリンパ腫は、慢性甲状腺炎がある場合に発生しやすい甲状腺リンパ腫で、悪性度はそれほど高くありません。進行はゆっくりで、自然消退することもあるため、経過観察を選択する場合もあります。しかし、なかにはDLBCLに移行する場合もあり、腫瘍の性質を見極めて対処する必要があります。慢性甲状腺炎がある場合には、リンパ腫のリスクを念頭に置いて、経過観察を行います。
監修
医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣
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