発育性股関節形成不全/先天性股関節脱臼
はついくせいこかんせつけいせいふぜん せんてんせいこかんせつ

最終編集日:2025/3/7

概要

大腿骨(太ももの骨)と骨盤の連結部分である「股関節」は、大腿骨の先端で球面になっている大腿骨頭と、それを受け止める骨盤側の臼蓋(きゅうがい)という椀状の部分から成り立っています。発育性股関節形成不全は大腿骨頭と臼蓋がうまく適合できない状態で、関節がはずれている(脱臼)、はずれかけている(亜脱臼)、臼蓋の発育が悪い(臼蓋形成不全)の3種類に分けられます。

以前は先天的な要因が発症に強くかかわるとされ「先天性股関節脱臼」と呼ばれていましたが、近年では発育に伴って脱臼に移行するケースがほとんどであることから、「発育性股関節形成不全」という名称に変更されています。

女児に多く、1000人に1~3人の頻度で発症するとされています。

この病気の予防法の周知が進み、最近では患者数が減少してきています。


原因

股関節周辺の筋肉の拘縮(硬くこわばること)、靭帯の弛緩、臼蓋形成不全、大腿骨頭の形態異常などが重なって発症すると考えられています。これらの要因には家族歴、骨盤位分娩などが関与するとされていますが、はっきりした原因はまだわかっていません。

①同じ方向に顔を向ける「向き癖」がある、②女児、③家族に股関節疾患にかかったことのある人がいる、④寒い季節・寒い地域生まれ、などが高リスク要因とされています。


症状

生後3~4カ月の検診(乳児健診)や小児科受診時、発育性股関節形成不全のチェックが行われます。出生後、数カ月して気づくことがほとんどです。

症状として、●股関節が開きにくい、●太ももを斜めに横切るしわ(大腿皮膚溝)や鼠径皮膚溝が左右非対称、●左右の足の長さが異なる、●股関節を開くときにクリック音(クリッ、コキッなど)がする、●あおむけ寝でひざを立てるとひざの高さが左右で異なる、●(歩くようになってから)歩き方がおかしい、歩く姿勢がおかしい、などがみられます。

股関節周辺が腫れたり、痛みを訴えたりすることはありません。


検査・診断

乳児健診の際に、問診(高リスク要因の確認)、股関節開排制限テスト(あおむけ寝にして股関節の開脚の制限角度をみる)と大腿皮膚溝・鼠径皮膚溝のチェックが行われます。

これらの検査で発育性股関節形成不全が疑われたら、整形外科での二次検診を受けます。二次検診では、上記の再確認に加えて、M字型開脚チェック、向き癖やからだのねじれの有無、左右の足の長さの差(アリス徴候)のチェック、X線検査、超音波検査を行います。

先天性内反足や脳性麻痺、二分脊椎症、筋性斜頸などの合併がないかも確認されます。


治療

生後3カ月までは、生活のなかで以下のような点に注意して、股関節の運動を妨げないようにします。

●足をM字に広げやすい衣服やおむつを用いる、衣服で足を包み込まない

●おむつを替えるときは足を持つようにして、お尻を持ち上げない

●向き癖があるときは、なくすよう努める

・反対側から話しかける、音の刺激を与える

・反対側に添い寝する

・向いている側の頭・からだの下にバスタオルなどを入れて少し持ち上げるようにする

・正面から抱っこして足がM字開脚になる「コアラ抱っこ」にする。子どもが自由に足を曲げられる姿勢が望ましい。

 横抱きは短時間とし、向き癖を助長しないほうに頭をもってくる

多くはこれらの習慣づけで、発育性股関節形成不全が改善されます。


3カ月以降の乳児の場合は、リーメンビューゲル装具を用いた装具療法を行います。肩から足の土踏まずまで伸びたバンドを装着して大腿骨頭を臼蓋に納まりやすくする方法で、効果がみられれば約12週間装着します。この方法で約70%に改善がみられるとされています。


生後7カ月以降や、装具療法で効果がみられない場合は、牽引治療が行われます。


いずれの保存療法を行っても整復されない場合や、再脱臼を起こした場合、また、歩き始めてから異常に気づいた場合には手術が選択されます。手術は股関節の内部や外部の整復を阻害する因子を切除して、骨頭を整復します。整復後はギプスや装具療法を行います。装具や手術によっていったん整復されても、臼蓋の発達が不良の場合は、亜脱臼になることもあり、その場合は、骨切り術(股関節周辺を手術によって変形させて、残っている組織で体重を支えられるようにする)などの手術が考慮されます。骨切り術は最も効果的な術式や時期を選んで実施されます。


セルフケア

病後

治療後は、股関節の成長が完成する15歳前後まで、定期的に通院して経過観察を行います。

予防

発育性股関節形成不全は、早期に発見して適切な治療をタイミングよく行えば、保存療法で改善が見込めます。3~4カ月健診で二次検診をすすめられたら必ず受けましょう。適切な治療を受けないと、成人になってから変形性股関節症を発症するリスクが高くなります。

また、上記の治療のうち、生活のなかで実践する治療法は、発育性股関節形成不全の予防法でもあります。とくにリスクが高いと考えられる場合は、日ごろから習慣づけるようにしましょう。



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監修

東馬込しば整形外科 院長

柴 伸昌