10代の女子に増えている摂食障害(拒食症)
最終編集日:2024/3/4
摂食障害とは、心理的な原因によって食行動に変調が起こり、それを自分では止めることができない病気です。患者さんの90%以上は女性で、特に10代の女子に多く、近年増加傾向にあります。
●嫌なことを忘れるためにダイエットに逃避
摂食障害には、小食や低カロリー食で極端(標準体重の80%以下)にやせる「神経性やせ症(拒食症)」と、むちゃ食い発作によってたくさん食べるものの、食後に嘔吐したり、下剤を使うことで正常範囲の体重を維持している「過食症」があります。神経性やせ症は「拒食症」とも呼ばれていますが、ときに拒食の反動で過食がみられることもあるため、神経性やせ症が正式な病名です。
神経性やせ症は、ストレス(学校や習い事などに追い立てられる生活、勉強や進路の悩み、友人などとの人間関係、家庭内の問題など)が積み重なっているところに、友人から「足が太いね」と言われたとか、試験の成績が下がったなどのちょっとした嫌な出来事が起こり、ダイエットに逃避することから始まります。
ダイエットによる小食や低カロリー食が続くと脳が飢餓状態になり、ストレスに鈍感になってあれこれ考えずに済むようになります。むちゃ食いをすると、その間は何も考えないで済む解放感があり、やせや過食によって救われるようになるのです。そして本人は意識していませんが、つらくてまともな状態では耐えられないときに「ダイエットしたい」と逃げ込むようになります。つらいことがある人が酒や薬物に依存するのと似ています。
そもそも、なぜダイエットを選ぶのかですが、最近こそ人を見た目で評価する「ルッキズム(外見至上主義)」が問題視されますが、これまでメディアの影響などによって「やせると自信を持てる、美しくなる」「ダイエットは誰にも迷惑をかけずに自信を取り戻す方法」などと刷り込まれてきたためと考えられています。
●あまり食べていないのに元気に動けるのが神経性やせ症
神経性やせ症の初期症状は、食事量が減るのに過活動になり、目にみえてやせてくることです。「やせても元気そう」といわれるほど無駄に動き、長風呂でやせを加速させます。ほかの病気でやせた場合はこのように動くことはできません。疲れを感じないのは脳の前頭葉機能が低下するためで、痛みなどを感じなくなり、味や物の大きさなどの認知にゆがみが生じます。患者さんは自分だけが実際よりも太って見えます。
やせに伴い、筋力低下、低血圧、低体温、無月経、下肢のむくみ、皮膚の乾燥などの身体症状や、気分の不安定、不安、抑うつ、集中力の低下などの人柄が変わったかのような症状もみられるようになります。また長期間、十分な栄養が摂取できないと骨粗鬆症や腎機能障害、脳の萎縮などが生じることがあり、最悪の場合は命に関わることもあり得ます。
そのため、家族や周囲の人が異変に気づき、心療内科や精神科などを一緒に受診し、適切な治療につなげることが重要です。受診先がわからないときは、最寄りの精神保健福祉センターや保健所が相談に応じている場合があるので問い合わせてみましょう。
●治療中は家族や周囲の人の理解とサポートが不可欠
神経性やせ症の発症の背景因子としては、性格(過度の完璧主義、人一倍負けず嫌い、他人からの評価に過敏)、硬直したストレス対処スキル(頑張るか我慢するしかなく、周囲への支援を求めない)、失敗の挽回を学ばせない養育環境、競争社会(偏差値の高い学校に患者さんが多い)、不安や報酬に関係する脳の機能異常などが挙げられています。また、遺伝子レベルでの解明も進み、発症に関係する遺伝子も発見されています。
治療は認知行動療法といった心理療法が行われます。体重を回復させながら、ストレスを作りにくくなるように、あるいはストレスに柔軟に対処できるようになってやせや過食に逃げ込まなくなることを最終目標にします。
回復には、本人の取り組みだけではなく、家族や周囲の人の理解とサポートが必要です。数年かかることも多いので、焦らずに支えていくことが大事です。本人のつらさを理解するように努め、ストレスの原因を取り除くなどの手助けが求められています。
摂食障害の情報を発信している「摂食障害ポータルサイト(一般の方向け)」や「一般社団法人日本摂食障害協会」のサイトなどが参考になります。
監修
跡見学園女子大学 心理学部 特任教授一般社団法人 日本摂食障害協会 理事長
鈴木眞理
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