カンピロバクターによる食中毒に気をつけて
最終編集日:2025/8/4
細菌性食中毒のひとつで、近年最も発生件数が多いといわれているのが「カンピロバクター食中毒」です。カンピロバクターとは、鶏や牛、豚、ペット、野鳥、野生動物など、さまざまな動物の腸内に生息している細菌です。人が感染すると、他の細菌性食中毒とよく似た腸炎の症状がみられます。主な感染経路は、加熱が不十分な食肉やレバーなどの内臓を食べることや、カンピロバクターに汚染された水を飲むことです。
なかでも特に注意したいのが鶏肉。カンピロバクターによる食中毒の原因の多くは鶏肉に由来しており、1年を通じて発生しています。夏は気温の上昇とともに発生しやすくなるため、より一層の注意が必要です。
●家庭でできるカンピロバクター対策
市販されている鶏肉の多くには、カンピロバクターが付着している可能性があるといわれています。この細菌は低温に強く、冷蔵庫や冷凍庫でも生き延びるため、常温に戻すと再び増殖するおそれがあります。
調理の際は、以下の点に注意しましょう。
・調理前後は必ず石けんで手を洗う
・生肉と加熱しない食材(生野菜など)を分けて扱う
・鶏肉は中心部までしっかり加熱(75度以上で1分以上)し、中まで白くなっていることを確認
・生肉に使った包丁やまな板は、洗剤で洗ったあとに熱湯または塩素系漂白剤で消毒し、しっかり乾燥
●鶏肉の生食は避けて!
最近は「新鮮さ」や「レア感」が売りの鶏料理も見かけますが、鶏肉の生食はカンピロバクターに感染するおそれが非常に高いとされています。「新鮮だから安全」というのは誤解です。たとえ「新鮮」と表示されていても、カンピロバクターがいないとは限りません。また、表面だけをあぶったり、さっと湯通ししたりしただけでは十分な加熱とはいえず、感染を完全には防げません。
バーベキューや焼き肉、焼き鳥を食べた後、数日してから発症することもよくありますが、自身が生ものを食べたという認識がないため、思い当たらないという人も多いようです。受診の際、医師には数日前の食歴も報告するようにするとよいでしょう。
●アウトドアやお祭りでの食事にも注意
夏はお祭りやバーベキュー、キャンプ、屋外イベントなど、外での食事の機会が増える季節です。調理環境によっては、加熱が不十分になったり、衛生管理が難しくなったりすることもあるため、食中毒につながるおそれがあります。実際に、屋外イベントで購入した鶏肉の加熱が不十分だったため、カンピロバクターによる食中毒を起こしたケースも報告されています。
外での食事では、次のような点に気をつけましょう。
・バーベキューでは、生肉用にトングや箸を分けて使い、肉の中心部までしっかりと加熱する
・焼き鳥など、肉が重なっている部分の生焼けに注意
・しっかりと火が通っているか確認してから食べる
●腸炎の症状と治療法
カンピロバクターは、汚染された食品を口にしてから1〜7日後に発症することが多く、一般的なウイルス性胃腸炎に比べて潜伏期間がやや長いのが特徴です。下痢や嘔吐より高熱が先行することが多く、「夏のインフルエンザ」や「おなかのインフルエンザ」と称されることもあります。発熱だけの時期に受診すると、医師も診断できないことがよくあります。一般的には、高熱、倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢、血便などの症状がみられますが、多くは1週間程度で自然に回復します。
治療は対症療法が中心で、整腸剤や解熱剤などを使いながら、水分補給と安静を心がけます。
一方、乳幼児や高齢者など抵抗力の弱い人は重症化のリスクがあるため、必要に応じて抗菌薬が処方されることもあります。抗菌薬はアジスロマイシンのようなマクロライド系抗菌薬が効果的です。
●感染後に気をつけたい「ギラン・バレー症候群」
カンピロバクター食中毒から回復したあと、「ギラン・バレー症候群」という合併症を引き起こすことが、ごくまれにあります。これは、手足のしびれや顔面まひ、筋力低下による歩行困難、呼吸困難などを伴う神経の病気で、重症化すると命にかかわることもあります。
頻度は低いためあまり過度に心配する必要はありませんが、感染後しばらくは体調の変化に注意し、異変を感じたら早めに医療機関を受診しましょう。
カンピロバクターは身近な食品から感染することのある細菌ですが、基本的な調理・衛生対策を守ることで食中毒を予防できます。
正しい知識をもって、日々の食事やレジャーを安全に楽しむ意識が何よりの対策になります。
監修
埼玉医科大学総合医療センター 総合診療内科 感染症科 教授(西荻窪駅前クリニック内科 顧問)
岡 秀昭