水頭症
すいとうしょう

最終編集日:2024/6/7

概要

脳や脊髄と、それらを包む“くも膜”との間の、くも膜下腔には「脳脊髄液(髄液)」という液体が存在します。脳脊髄液は脳の“脳室”という場所で産生され、脳や脊髄の周囲を循環し、静脈に吸収されます。通常、成人では約150mL、小児では100mL の脳脊髄液が循環していますが、脳室では1日に約500mLの脳脊髄液が産生されているので、数回入れ替わっています。

何らかの原因により、脳脊髄液の流れが滞ると、おもに脳室内に過剰に貯留してしまいます。この状態が「水頭症」です。頭蓋内の圧力が上がってしまうこと(頭蓋内圧亢進)や、たまった脳脊髄液で脳室が拡大して脳を圧迫することで、脳障害を招きます。


水頭症は、脳室内での脳脊髄液の流れが障害されることで生じる「非交通性水頭症」と、脳室を出た後、脳脊髄液の循環や吸収に障害があることで生じる「交通性水頭症」の2つに分けられ、おのおの原因疾患や症状、治療法が異なります。


「非交通性水頭症」は先天性疾患、脳腫瘍、出血などによることが多く、「交通性水頭症」はくも膜下出血、感染症などのほか、原因不明のことも多いため、小児では「非交通性水頭症」が多く、成人では「交通性水頭症」が多くなる傾向があります。

ここでは、乳幼児や小児の水頭症について説明します。

原因

水頭症の発症時期からは「先天性水頭症」と「続発性(後天性)水頭症」に分けられます。


「先天性水頭症」は、出生時からみられる水頭症で、脳神経の発生異常が原因となる原発性水頭症や、胎内での感染や出血などによるものを含めた胎児期水頭症といえます。発生異常によるものには、中脳水道狭窄症、脊髄髄膜瘤に伴うものなどが含まれます。先天性水頭症の頻度は1万人の出産に3.8人程度です。

「続発性(後天性)水頭症」は出生後、脳腫瘍(小児に多い腫瘍がある)、脳出血、髄膜炎、頭部外傷などによって発症します。未熟児では周産期、特に新生児期に脳出血が生じやすく、水頭症をきたす場合が多くみられます。

先天性水頭症、続発性水頭症ともに、水頭症の起こり方は、原因によって「非交通性水頭症」あるいは「交通性水頭症」になります。

症状

乳幼児の場合、頭蓋骨の縫合が未完成で骨同士が完全にくっついていないため、頭蓋内圧の亢進が持続すると、脳室の拡大とともに頭囲が拡大してきます。眼球の黒目が下を向く「落葉現象」がみられ、頭や顔の静脈が怒張してふくれて見えるなどが現れることもあります。

乳幼児以降は、頭蓋骨の縫合が完全にくっついた後に発症するので、頭囲拡大はしないものの、頭蓋内圧が亢進し、いろいろな症状が現れてきます。すなわち、繰り返す噴き出すような嘔吐(噴出性嘔吐)、頭痛、けいれん、元気がない、哺乳力の低下、複視(物が二重に見える)、傾眠傾向(時間を問わず眠がる、眠ってしまう)、意識障害などが現れます。

頭痛、嘔吐、視力障害を3主徴(代表的な症状)とすることもあります。

検査・診断

出産前の胎児期水頭症の診断は、母体の超音波(エコー)検査で脳室拡大や胎児の頭の大きさを計測して行います。問診ののち、乳児では頭位の拡大を確認します。正常な値を超えている場合には水頭症を疑います。頭部超音波検査、頭部CT・頭部MRI検査の画像診断で脳室の形態や拡大の状態、脳内の原因病変の有無などを精査します。

続発性の場合には、原因疾患の特定のための検査も行います。水頭症をきたす脊髄髄膜瘤は出生前の超音波検査で診断がつく場合があります。

治療

治療の目的は、脳室拡大および頭蓋内圧亢進による脳の損傷を回避し、脳の発育に好ましい環境にすることにあります。治療法には、脳室腹腔シャント術、髄液リザーバー留置術、第三脳室底開窓術があります。また、続発性の場合は、原因疾患の治療もあわせて行われます。


●脳室腹腔シャント術(VPシャント)……脳室から腹腔(腸管などがある空間)に脳脊髄液を流すバイパスをつくる治療法です。腹腔に流された脳脊髄液は自然に吸収されます。カテーテルというシリコン製の細い管を用います。シャントする先は、腹腔のほかに、心臓の心房、胸腔などがあります。また脳室ではなく、腰部のくも膜下から腹腔にシャントをつくるものもあります。患児の体格や全身状態などによって選択されます。


●髄液リザーバー留置術……感染があったり患児の状態で、シャント術が難しい場合に行われる方法です。一時的に脳脊髄液をためる「リザーバー」を頭皮の下に設置し、脳室とリザーバーをオンマイヤ管という管でつなぎます。リザーバーに細い針を刺して定期的に髄液を抜き、頭蓋内圧を下げつつ髄液の性状の改善を待ったり、患児の成長を待ったりします。


●第三脳室底開窓術……中脳水道と呼ばれる脳脊髄液の通り道が閉塞することで水頭症が起きている場合などに適応となる方法です。中脳水道は第三脳室と第四脳室をつないでいますが、第三脳室の底にあたる部分の膜を、窓を開けるように開くことで、脳脊髄液の通り道を新しくつくります。神経内視鏡という器具を用いて行われます。

セルフケア

病後

乳幼児期に発症した水頭症で、続発性のものは原因疾患が改善されれば、水頭症も改善されます。また、先天性のものでも、成長にしたがって脳脊髄液の吸収力が上がれば、水頭症が改善されてシャントを抜くことが可能になるケースもあります。しかし、基本的に、シャントは継続的に留置する必要があります。

シャント留置の合併症として、感染、シャントの機能不全、脳脊髄液の過剰排出などが起こり得ます。医師の指導にしたがって、シャントの管理や通院を行い、安全・効果的に治療を続けられるように努めましょう。

監修

昭和大学医学部脳神経外科 名誉教授

藤本司

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