過去の病気ではない「結核」

最終編集日:2025/6/16

かつて「亡国の病」と恐れられた結核。1950年代までは日本人の死因第1位でしたが、抗結核薬の普及により大幅に減少し、今では過去の病気だと思われがちです。

しかし、厚生労働省の発表によると、前年より減少はしているものの、2023年には約1万人が新たに結核を発症し、1500人以上が亡くなっています。

近年は若年層の新規患者も増加しており、結核は決して過去の病気ではなく、どの世代にとっても無関係ではない病気といえます。


●結核はどんな病気?

結核は、「結核菌」という細菌がからだに侵入し引き起こされる感染症です。

菌がどこで増殖するかによって、腸結核、腎結核、脊椎カリエスなど名称が変わりますが、日本で最も多いのは肺に感染する「肺結核」で、結核患者の約8割にあたります。

結核予防のため、乳幼児は定期接種である「BCGワクチン」を生後5カ月~8カ月の期間に1回接種します。ただ、その効果は10~15年程度といわれ、大人の結核予防に対する効果は高くないとされています。

つまり、思春期以降の私たちは誰でも感染・発症する可能性があるということです。

加齢に伴い免疫力が低下する高齢者は発症しやすい傾向にありますが、若年層でも基礎疾患のある人、過度なダイエットなどで栄養不良の人、不規則な生活をしている人など、免疫力が低下している状況では注意が必要です。


●2週間以上続く風邪の症状に注意

結核は人から人へと感染する病気です。

結核菌は空気中でも生き続けるほど乾燥に強い細菌ですが、吸い込んだからといって必ず感染・発症するわけではありません。

多くの場合、健康な人であれば、気道粘膜の線毛機能の働きで細菌をからだの外へ排除できますし、たとえ肺に到達しても、免疫細胞である肺胞マクロファージに貪食され、感染にはいたりません。

一方で、抵抗力の弱い高齢者や乳幼児、病気などで抵抗力が落ちている場合は、結核菌が肺胞マクロファージなど組織中に潜在し、後に発症するリスクとなることがあります。

結核は感染してから発症までに半年から2年ほどかかることがあり、非常にゆっくりと進行するのが特徴です。

元気なときは抑えられていた結核菌が、何十年も経って体力が低下したタイミングで活動を始め、発症することもあります(高齢者はこのパターンが多く、内因性感染と呼ばれています)。


結核の治療には、複数の抗結核薬を半年ほど継続して服用する必要があります。風邪のように自然に治癒することはないので、早期発見、早期治療が大切です。

咳や痰、発熱、倦怠感など風邪の症状が2週間以上続いている、体調が長くすぐれないなど、「もしかして?」と思うことがあれば、早めに呼吸器内科を受診することをおすすめします。


肺結核を発症しないためには、免疫力を低下させないことが大切です。日頃から規則正しい生活習慣を心がけ、疲れやストレスをため込まないようにしましょう。

また、手洗いなど、感染症予防のための対策を日ごろから行うことも大切です。



※2025年6月2日現在の情報です。


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監修

千葉大学病院 呼吸器内科特任教授

巽 浩一郎