誰かの指示がないと行動できない

誰かに指示されないと動けないことの理由は、ご自身の意志で行動することで間違えてしまう、という不安があるからなのですね。子どもの頃に親や周囲の大人から「自分の意志で行動すると失敗してしまう」「迷惑をかけてしまう」「それは、とてもダメなことである」というメッセージを繰り返し受け取っていたのではと想像されます。親の言うことさえ聞いていれば安心、という価値観の中で過ごされてきたのかもしれません。

でも、そんなご自身のあり方について「これではいけない」という気持ちが芽生えているようですね。それはとても大事な気づきであり、大きな第一歩です。その気持ちをまずは大切にして、気づくことができたご自身を認めてあげてください。

さて、自主的に動くことの大切さは、おぼろげながらわかってきたものの、いざ挑戦となると不安が出てきて動けないのですね。無理もありません。今までにない新たなやり方を試すとき、怖さや不安な気持ちがわくのは自然なことです。こうして湧いた不安な気持ちは、打ち消そうとすればするほど裏腹にますます大きくなっていくものです。

まずするべきことは、不安と向き合うことです。「自分の意志で行動 → 失敗 →迷惑をかける」ことは、どんな人でも、どんな場面でも起こり得ます。やってみないとどういう結果になるか、じつは誰にもわからないことなのです。

では、もう少し深く考えてみましょう。実際に、あることを自分が行ない失敗したとしましょう。その結果、何が起きると思いますか。ご自身や誰かが命を落としたり、日常生活が困難になるほど傷ついてしまったり、取り返しのつかない重大な結果になることが起きるでしょうか。もちろん場合によっては、そういう可能性もあるでしょう。でも、現実的に考えてほとんどの場合は、そういう結果になることはないと思われますが、いかがでしょうか。もしかしたら自分の失敗で、誰かが不快な気持ちになるかもしれませんし、誰かの手を借りなければいけない事態になるかもしれません。また、職場であれば、上司に叱責や注意をされるかもしれませんし、家庭なら、夫の機嫌が悪くなるかもしれません。でも、起こるとしたら、その程度のことが大多数ではないでしょうか。

本当は「迷惑をかける」ことが不安なのではなくて、マイナス評価を受けてしまうことがいちばん怖いのではないでしょうか。これは責めているわけではありません。誰でもマイナス評価を受けるのは嫌なものです。できれば受けたくないと思っています。叱られればいやな気持ちになりますし、大げさに言えば心が傷つきます。なぜなら、誰でも「自己愛」という感情を持っているからです。

でも、傷つくことを恐れていると自分の力で何もできない状態になるのは、身にしみてわかっていらっしゃるようなので、傷つくことを受け入れるためには、やはり一度挑戦してみることです。ハードルの低い仕事や家事からでかまいません。最初はやれるところから、ごく簡単なことからでよいので、まず指示を受けずに、自分でやってみましょう。それがむずかしければ、「自分はこういう風にしたいと思っているが、それでいいか」と尋ねてみましょう。それを何回か繰り返したら、次は自分の考え、意思で動いてみて、その後に「こうしてみたんだけど、これでよかったか」と聞いてみるようにします。少しずつ段階を昇るように「自分でやれた。自分の判断は正しかった」という経験を積むところから始めてみましょう。

一人でするのはむずかしいということであれば、カウンセリングなどを受けながら専門家と一緒に取り組んでみるのもひとつの方法です。