「今、自分がしたいこと」で心のケアを

最終編集日:2022/1/28

がんの治療を受けながらの生活は、それまでとは大きく変わります。自分に合ったリフレッシュ法を見つけ、長い治療にも負けない心を保ちましょう。


悩みや不安は「がん友」と共有


がんのことを周囲のどこまでの人に伝えるべきか、迷う場面も多いことでしょう。そのときの判断基準は「自分が公表したいか、したくないか」です。特に治療中や病後は気持ちが弱くなっていますし、周囲が善良な人ばかりとは限りません。心ない言葉を放つ人がいるかもしれませんし、相手がよかれと思って言ったひと言に、心をひどく傷つけられるかもしれません。病気のことを「誰にどこまで」打ち明けるかは、慎重に考えてからのほうがよいでしょう。
家族や友人には話しにくいことでも、同じがん体験者、いわゆる「がん友」になら気軽に話しやすいかもしれません。入院時に同室だった人との交流や、患者会、援助団体、自助グループなどを通じて得られるものは多いはずです。同じ悩みを共有し、「悩んでいるのは自分だけじゃない」とわかるだけでも、気持ちが楽になるでしょう。


「楽しめない自分」を責めないで


がんの治療は、「悪いところを切って終わり」ではありません。手術後も放射線治療、化学治療など、長い時間がかかります。その長い治療期間を前向きな心で進んでいくためには、「治療に専念しすぎないこと」も大切です。入院中は「患者であること」に全力を注いでも構いませんが、退院後も病気のことだけにとらわれていると、心も体も疲弊します。まずは一日の中でわずかな間でも、病気以外のことを考える時間をつくってみてはいかがでしょうか。それでも、次々に心配事が浮かんでくるときは、「それが実際にどれくらいの可能性で起こるのか」を冷静に考えるとよいでしょう。また仕事やプライベートで辛(つら)い状況を乗り越えたときのことを思い出し、その方法を試すのも役に立つかもしれません。
散歩や運動、趣味に打ち込んで気持ちをリフレッシュするのもおすすめです。ただし「リフレッシュのために」と無理に行う必要はありません。特に治療中は以前の趣味を再開しても、家族や友人と出かけてみても「心から楽しめない」と感じる人が多いようです。そんなときは楽しめない自分を責めるのではなく「今、自分がしたいことは何か、何をしたら心が休まるのか」を最優先に考えるとよいでしょう。
アクティブに動かなくても、気分転換はできます。たとえばおいしいコーヒーを買ってきてていねいに淹(い)れる、部屋に花を飾る、録画しておいた番組を見るなど、ほんの些細(ささい)な行動で、気持ちが豊かになることもあります。
また「今日一日の楽しかったこと、気分がよかったこと」を毎日寝る前に思い返すのもよいでしょう。「安くておいしい野菜を買えた」「日差しが暖かくて気持ちよかった」「隣の席の人と会話が盛り上がった」など、一日の中でひとつでも「今日のよいこと」に目を向ける習慣をつけると、気持ちが前向きになります。


心がつらいときは専門医に相談を


「がんになる」ことは、衝撃的な出来事です。がんの告知を受けたあとは、大きな不安とさまざまな喪失感に襲われ、心が不安定な状態になります。
がんという病気は、言ってみれば「体と心の二重苦」です。体の苦しみは、治療によってある程度救われますが、心の苦しみは、これまでのがん医療では見過ごされていました。がん治療中の不安や落ち込みに医療者が気づかなかったり、たとえ気づいても「がんになったのだから、ある程度落ち込むのは当然」と考えられてきたのです。
しかし、この10年ほどの間に、患者さんやご家族の不安や悩みに対処する精神腫瘍科や相談センターが次々と開設されています。がんは体の病気だけではなく、心にも支障をきたします。がんになった人でなければわからない悩み、苦しみ、なかなか口に出せない病気に関する思いが無数にあります。そんなときは無理をせず、専門医に相談してみましょう。
全国のがん診療連携拠点病院※2に整備されている「緩和ケアチーム」には、精神腫瘍科など心の専門家が配置されています。また、日本サイコオンコロジー学会※3のホームページでは、全国の精神腫瘍医が紹介されていますので、参考にしてください。


精神腫瘍科受診の目安

・何をしても気分が晴れず、一日中悲しい気分や絶望感が続く
・いつまでたっても、今まで楽しめていたことが楽しめない
・自分なりにいろいろと工夫をしても、元気がでない
・気分が滅入って仕方ない
・不安で何事にも興味がもてない
・食欲がない
・眠れない
・からだがだるい
・自責の念にかられる
・過去を悔やみ、死ぬことを考える
・このままの状態が続くなら死んだほうがましだと思う
※このような状態が2週間以上続いているときは精神腫瘍科など医学的関与が必要。


心を癒やすアロマテラピー


がんの治療中は、多くの人が緊張やストレスにさらされます。そんなときはアロマテラピー※1の力を借りてリラックスするのも、ひとつの方法です。香りはダイレクトに脳に伝わります。そのため気分や症状に合わせた精油を生活の中にとり入れることで、心を動かすことができるのです。たとえば気持ちが落ち着かないときや眠れないときは、ラベンダーの精油が心をリラックスさせてくれます。ハンカチやティッシュにラベンダーの精油を2~3滴垂らして携帯したり、眠れないときは枕元に置くのもよいでしょう。
精油は選ぶのが難しそう……という人にはハーブティーがおすすめです。ハーブにも心が安らぐさまざまな効能があるので、主治医に相談し試してみましょう。



※1 アロマテラピー
アロマテラピーとは、アロマ=芳香、テラピー=療法を組み合わせた造語で「芳香療法」と訳される。アロマテラピーには、植物の葉や花、樹皮や実などから抽出した天然の成分「精油」を使う。


※2 がん診療連携拠点病院
全国400箇所の医療機関を国が指定。専門的ながん医療の提供やがん患者に対する相談支援及び情報提供等を行っている。


※3 サイコオンコロジー(精神腫瘍学)
がんによる心の辛さを和らげる医療分野のこと。がん患者や家族に心のケアを提供し、最適ながん治療が実施できるようサポートすることを目的とした部門。

監修

埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科,教授

大西秀樹

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