成長ホルモン異常せいちょうほるもんいじょう
最終編集日:2022/4/6
概要
成長ホルモンには、成長促進と代謝の調節という働きがあります。この成長ホルモンが過剰につくられたり、不足したりする状態を成長ホルモン異常といいます。過剰な場合は、子どもでは巨人症や下垂体巨人症が、成人では先端巨大症(末端肥大症)が起こり、分泌が不足する場合は、成長ホルモン分泌不全性低身長症などの症状が現れます。
成長ホルモンは成長期にもっとも多く分泌され、成長期を過ぎると分泌量は低下しますが、筋肉量の保持や増加、精神的な健康維持に重要な役割を果たします。
原因
成長ホルモンは脳の奥にある下垂体から分泌され、各器官の成長を促しますが、その下垂体に「成長ホルモン産生下垂体腫瘍」という良性腫瘍ができてしまうと、成長ホルモンが過剰に分泌されてしまい、成長ホルモン異常をひき起こします。また、まれに膵臓や肺に発生する腫瘍からのホルモン分泌が下垂体を刺激し、成長ホルモンが過剰につくられることもあります。
一方、成長ホルモンの分泌が正常より少ない、成長ホルモン分泌不全性低身長症の原因の90%以上は不明です。5~10%は頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ:本来なくなるはずの組織から発生する腫瘍)などの脳腫瘍が原因ですが、成長ホルモン放出因子の遺伝子異常などが要因となっていることもあります。
症状
子どもの場合、成長ホルモンが過剰に分泌されると、身長が異常に伸びたり、手足が長くなったりする巨人症となります。一方、骨の成長が止まった成人に成長ホルモン異常が起こると、身長が伸びる代わりに、特有の顔つき、巨大舌、手足の容積増大など、骨が変形する先端巨大症がみられます。しかし多くの場合30~50歳頃にゆっくりと変形するため、何年も気づかずに過ごしてしまっていることもあります。さらに代謝にも異常をきたすことがあり、手足のしびれ、心不全、脱力、視覚障害などの症状が現れることもあります。
一方、成長ホルモン分泌不全性低身長症で、生まれつき成長ホルモン分泌不全がある場合は、新生児のときに低血糖が起こったり、年を追うごとに平均身長よりも身長が伸びなくなったりします。また、下垂体から分泌される成長ホルモン以外のホルモンが分泌障害になっていることもあり、その場合はそのホルモンの低下や不全によってみられる症状を併発します。
検査・診断
成長ホルモンの過剰分泌の診断は、血液検査や画像検査で行われます。
視診による、手足の容積増大、特有の顔つき、巨大舌、子どもの場合は極端な成長など見た目の症状に加えて、血液検査とX線検査、頭部MRIなどの画像検査を行います。画像検査では、頭部の骨の肥厚と副鼻腔の拡大がみられ、手のX線検査では指先の肥厚と骨の周辺組織の腫れがみられます。血液検査で、成長ホルモンとインスリン様成長因子の数値がともに高い値を示せば診断が確定されます。また、先端巨大症は症状がゆっくり変化していくため、数年をかけて定期的に撮影した検査画像が診断の重要な役割を果たします。
成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断では、身長や成長速度、手首のX線検査によって骨年齢を確認し、成長障害を判定します。また成長ホルモン刺激試験で成長ホルモンの分泌不全の有無やその他の検査所見を確認し、低身長の要因がほかにないかを判断したうえで診断します。
治療
成長ホルモンの過剰分泌の治療には、手術療法、放射線療法、薬物治療(薬による治療)があります。
腫瘍による先端巨大症は、第一に下垂体腫瘍を手術によって切除する治療を行います。ほとんどの場合、成長ホルモンの過剰分泌が治まり、ほかのホルモンにも影響を及ぼしません。しかし、腫瘍が大きくなっていて手術で取り除けなかった場合には、放射線療法をフォローアップ治療として用いることがあります。成長ホルモンの量は薬物療法でも期待でき、成長ホルモンの生産と分泌を抑制するソマトスタチン系の薬剤が効果的です。薬を使用しつづけていれば病状を抑える効果は期待できますが、現時点では投与は注射に限られるうえに高価という欠点もあります。
一方、成長ホルモン分泌不全の場合は、成長ホルモンを補うためにホルモン製剤の自己注射を毎日行います。そのほかにも不足しているホルモンがある場合は、それも並行して補充することもあります。しかし、ホルモンを体内に補うことで、発疹やかゆみなどが現れる過敏症、頭痛やしびれなどが起こる精神神経系症状、関節痛、下肢痛などの成長痛が現れる筋骨格系症状、甲状腺機能低下症や耐糖能低下などの内分泌症状などが起こっていないかを注意して観察することが必要です。
セルフケア
予防
成長ホルモンは、睡眠中に分泌されます。成長ホルモンの適切な分泌には、深く十分な睡眠が大切です。深い眠りのコツは日中に太陽を浴び、夜は暗く静かな睡眠環境で眠ることです。規則的な睡眠は、自律神経などの脳神経細胞の働きを正常に保ち、健やかな成長を促します。成長ホルモンの分泌に過敏になりすぎず、日常生活でできることから始めてみましょう。
子どもの成長過程で、定期的に身長を測定する、身長の伸び率などがほかの子どもとくらべて大きな隔たりがないかに気をつけ、少しでも気になったら、診察を受けてみてください。
監修
医療法人青泉会下北沢病院 糖尿病センター長
富田益臣
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